神経内分泌腫瘍はホルモンを産生する神経内分泌細胞にできるがんだ。神経内分泌細胞は全身にあるが、すい臓や消化管、肺に発症するケースが多い。治療の第一選択は手術だが、再発や転移がある場合の新しい治療法として放射性薬剤ルタテラが保険適用となった。この薬剤には放射性同位元素が組み込まれており、これを注射し、細胞の内側から、がんを攻撃する。
神経内分泌細胞はホルモンを分泌している。この細胞から発生するがんを神経内分泌腫瘍という。実は、この細胞は全身に点在しているが、発生するがんの8割強をすい臓や小腸・大腸などの消化管、肺が占めているのだ。
治療は手術が第一選択だが、腫瘍を取り切れない場合や、すでに転移があれば抗がん剤などの化学療法が行なわれる。これらの治療でも効果が得られないケースでは保険適用となった放射性薬剤のルタテラを使用する治療法が実施されている。
金沢大学附属病院核医学診療科の萱野大樹准教授に聞く。
「神経内分泌腫瘍の表面にはソマトスタチン受容体が発現しています。これを目印として集まる性質の薬剤に放射性同位元素ルテチウム177を結合したものがルタテラです。このルタテラを注射すると全身に散らばっているがん細胞が自動的に薬剤を取り込み、同時にβ線が放たれ、腫瘍を内側から攻撃します。がんが多発していても1回の注射で、全ての病変を治療できるのが大きな特徴といえます」
ルテチウム177の出すβ線は1ミリ程度の範囲しか届かないため、がんの周囲の正常細胞を傷つけるリスクが低く、一般的な抗がん剤と比較しても副作用が少ない。治療は8週ごとに4回注射し、終了となる。注射後、半日から1日は周囲の人への被ばくを避けるために専用の個室で過ごす。
「保険適用直後のことですが、治療に訪れた患者さんは立つのも難しく、そのままストレッチャーに横たわった状態で入院したことがあります。それが2回目の治療時には歩いて生活されるまでに回復していました。神経内分泌腫瘍が広範囲に広がっている場合には予後がよくないのですが、この治療法は奏功を実感できることが多く、患者さん自身も励みになると思います」(萱野准教授)