日本を取り巻く分断の正体や、自由で平等な社会がかえって不自由さを生む皮肉さを脳科学や進化論、遺伝学をもって読み解くベストセラー作家の橘玲さん。新刊『シンプルで合理的な人生設計』も話題の彼が、最近関心を持っているのがホストクラブにハマる、いや狂う女性客たちの存在。通称「ホス狂い」と呼ばれる彼女たちを追い続けるノンフィクションライターの宇都宮直子さんと緊急対談を行った。
アプローチの違いこそあれ、互いに日本社会の「不都合な真実」に迫るふたりが、頻発する事件の読み解き方からシニア婚活の最新事情まで、日本を取り巻くシビアすぎる現実について語り合った。その第2回をお送りする(全3回)。
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橘:そもそも、宇都宮さんがホス狂いに興味を持たれたきっかけって、どういったものだったんですか? 取材とはいえ、彼女たちの「物語」を聞き続けるのはかなりの労力が必要だったと思うのですが。
宇都宮:想像していた以上に大変でした……。ホス狂いという言葉を知ったきっかけは、2018年に起きた「歌舞伎町ホスト殺人未遂事件」の取材が最初です。ガールズバーの店員が相手のホストを「好きで好きで仕方なかった」という動機で刺してしまったという。
橘:事件の直後にSNSで、血だらけになった犯人の女の子の写真が拡散されたことも含めて、当時かなり話題になりましたよね。
宇都宮:はい、あの刺されて倒れていたホストにも取材したのですが、そのときに犯人がホストに獄中から宛てた手紙を見せてもらって、その中に「夢のような2か月をありがとうございました」と書いてあったんです。この男のせいで、人生がめちゃくちゃになって、いま拘置所にいるのに、それでもなお幸せだと思っているのはなんでなんだ? とすごく衝撃を受けて。そもそも、私は週刊誌の記者としていろいろな事件の現場に行く中で、女性が起こす事件について強い興味を持つようになったというのもあるのですが……。2006年の『秋田連続児童殺害事件』とか。
橘:なるほど。記者になられたのは、秋田の事件から?
宇都宮:いえ、もっと前からなんですが、記者として意識的に取材しようという「自我」が目覚めたのが秋田の事件だったんです。それまではただ現場に飛ばされて、とにかく取材して、という。
橘:そもそもなんで記者になろうと思ったんですか? 女性の事件記者って、けっこう珍しいですよね。
宇都宮:いや、実はお恥ずかしい話なんですが、きっかけは大学時代にホストにハマったことで……。
橘:ということは、宇都宮さんもホス狂い!?(笑い)。シャンパンタワーを建てたり?
宇都宮:いや、ぜんぜんそんなレベルじゃなくて、「ホス狂い」を名乗るなんておこがましいくらいささやかなもので。しかも歌舞伎町じゃなくて八王子ですし……(笑い)。学生の頃って、周囲にいる同年代の男の子よりも少し年上のほうがかっこよく見えたりするじゃないですか。その延長線上で、ホストに行ってしまって。
橘:確かに女性が同世代の男の子をすごく子どもに思うっていうのはよく聞きますよね。二十台前半くらいまでは、男女で精神年齢がかなり違うから。