山梨学院の県勢初優勝で幕を閉じた95回目のセンバツは、前半戦がWBCの決勝ラウンドと日程が重なり、侍ジャパンが2009年以来となる2度目の世界一の快挙を達成してからもしばらく話題を独占したため、どうしても隅に追いやられてしまった感は否めない。開会式から甲子園には空席が目立ち、大阪桐蔭や報徳学園(兵庫)など地元の人気校が登場しても1万人しか入らなかった試合があった。決勝こそ3万人の観衆を集めたが、大会を通じて客入りは低調だったといえる。
とはいえダルビッシュ有や大谷翔平ら、甲子園球場から世界へ羽ばたいていった怪物の活躍の裏で、聖地できら星のような輝きを放った球児たちがいた。
まずはWBCの準決勝が行われた3月21日。WBC準決勝のプレイボールから1時間後の午前9時にスタートしたのが「石橋(栃木)対能代松陽(秋田)」だ。テレビ中継のド真ん中に映る、野球に励む子供達を招待した「ドリームシート」にも空席が目立つなかで、真っさらな1回表のマウンドに上がったのが能代松陽のMAX144キロ右腕・森岡大智だった。
21世紀枠で選出された石橋を相手に、身長184センチの大柄な右腕が許した安打は内野安打ふたつだけ。正確無比なコントロールで四球もなく、12個の三振と凡打の山を築いて完封した。展開が早く試合が終わったのは10時51分であり、海の向こうではまだ日本がメキシコに0対3とリードを許していた(ちなみに村上宗隆のサヨナラ打が生まれたのは第2試合の長崎日大対龍谷大平安の2回だった)。
WBCの“裏番組”開催から一転して、3月28日の3回戦では優勝候補の大阪桐蔭と対戦し、テレビ中継でも注目の的に。7回にスクイズによって1点を先制され、0対1と惜敗したものの、横綱を相手に5回まで無安打投球を続け、「被安打2」の内容はさぞや満足だろう――。そう思って話を聞いたのだが、どうも本人は浮かない表情だ。
「石橋高校さんとやった時よりも、コントロールが悪く、球もいっていなかった。調子的には、良くなかったです。7回に先頭打者にスリーベースを打たれてしまったことが悔しい。(スクイズの場面は)打ってくると思っていた。もっと対策できた」
全国から有望選手が集まる大阪桐蔭のアイボリーのユニフォームを前にしても萎縮することはなかった。
「負けたら高校野球が終わるぐらいの気持ちで臨みました。実際は夏がありますが、これで高校野球が終わると思ったら、悔しさがこみ上げてくる。去年の東北大会では、1点差で仙台育英(宮城)に負けて、今日も大阪桐蔭に1点差で負けてしまったということは、自分が無失点に抑えたら、どんな学校が相手でも勝てるということを表していると思う。夏はすべての試合を完封して、日本一になりたい」
もう一度聖地でのピッチングを見たいと強く思わせる投手だった。