終活らしい終活はほとんどせず、女優として「生涯現役」を貫く藤田弓子(77才)。喜寿を迎えたいまもステージに立ち続ける彼女が、コロナ禍に困難に直面していたことを知る人は少ない。数々の映画やドラマで存在感を放つ名女優が陥った自宅差し押さえの危機──。
「いま年配の役者さんは本当に大変ですよ。私は何とかお仕事をいただけているけど、たとえば『あの人ボケちゃってる』なんて言われたら、とたんに声がかからなくなりますから。コロナ禍で、役者の仕事がつくづく“肉体労働”だということが身に染みてわかりました。舞台に上がって芸を披露することしかできないのに、長い間、それすらもできなかった。それでもみんな何とか踏ん張って必死に生きているんです」
こう話すのは、昨年喜寿を迎えた女優の藤田弓子。現在公開中の映画『ロストケア』をはじめ、昨年公開された『Dr.コトー診療所』など、話題作に立て続けに出演する名バイプレーヤーである。東京に生まれ育った藤田が静岡県・伊豆の国市に移住したのはいまから約30年前のこと。富士山を望む高台に建つ瀟洒な邸宅に、6才上の放送作家の夫と静かに暮らす。
「亡くなった母も私も生粋の“江戸っ子”で、東京が大好きなんですけど、母が『富士山が見えるところがいい』って言って見つけてきた土地なんです。長く住んでるので建物はあちこち傷んできたけど、自然に囲まれた生活はいいですよ」(藤田)
伊豆の国市で市民による劇団を主宰する藤田は地元の人々とも交流があり、劇団員が雪かきや草むしりを手伝ってくれることもあるという。愛する夫と仲間に囲まれた里山での平穏な日々に、異変が起きたのは2015年頃。藤田は当時、『三匹のおっさん』シリーズ(テレビ東京系)をはじめ、年間10本以上のドラマに出演し、東京と静岡を頻繁に行き来する二拠点生活を送っていた。事情を知る芸能関係者が語る。
「仕事が立て込んだときは都内に所有するマンションに寝泊まりすることもあったようです。ところが、経理上のミスなどが重なって静岡県の地方税の支払いが滞り、そのマンションが伊豆の国市に差し押さえられてしまったんです。すぐに滞納分を支払って差し押さえは解除されたものの、しばらくしてから藤田さんはマンションを手放しました」
同じ頃に藤田の個人事務所でも、約400万円の法人税や消費税の滞納があり、伊豆の国市に所有する藤田の自宅が財務省に「換価の猶予」の担保として差し押さえられた。税理士の高橋創氏が解説する。
「換価の猶予とは、簡単に言えば“分割払い”のことです。税金は一括で払うのが基本ですが、財産や収支を明らかにした上で納付計画を申請し、税務署に認められれば分割で支払うことができます。その手続きの上で土地や家屋を担保として差し入れることもあり、支払いが滞れば公売にかけられる可能性もあります」