「怒りは敵と思え」「怒りは愚かな者の胸に宿る」。古来、喜怒哀楽の「怒」の感情はいさめられるべきものとされてきた。しかしいま、それが変わりつつある。社会と時代の最先端に立ち、健康な体を持ってエネルギッシュに活躍する女性たちの共通点は、「怒るべきときにしっかり怒れる」ことだ──。
「あなたが私に、『女性の怒りをテーマに話してほしい』と依頼してきたことこそ、社会が変わりつつある証明なんだと思います」
早口でそう語るのは、日本の女性学研究の第一人者で、シャンソン歌手としても活躍する田嶋陽子さん(82才)。「怒ることは人間の権利」と語る彼女は、かつて日本一「怒る女」として知られた。
1990年代初頭に『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日系)などの番組に颯爽と登場した田嶋さんは、《男だってパンツを洗え!》《女性はパン(職業)を、男性はパンツ(家事)を》といったセンセーショナルな発言を連発し、議論の最中に激高して「もう帰る!」と席を立つこともあった。
それまでの女性コメンテーターに見られなかった歯に衣着せぬ物言いは大きな喝采を浴びる半面、反発もすさまじく、特にテレビを見た男性から「うるさい女だ」「いい加減にしろ」という激しい批判が殺到。一部の女性からも「同じ女として恥ずかしい」などと苦言を呈された。
「テレビ番組の中で私が怒ると『ヒステリーだ』と言われ、悪口を浴びせかけられて足蹴にされました。自分が言いたいことを主張しただけなのに、“女が怒っている”というだけで話もロクに聞いてもらえず、評判はガタ落ちでした。怒りは人間誰しもが持つ当たり前の感情の発露なのに、それを表現するとものすごく叩かれた。何でそうなるのかという研究を、ずっと続けてきました」(田嶋さん・以下同)
田嶋さんがたどり着いたのは、「日本の社会構造に問題がある」という答えだった。
「日本社会には長らく、『男は社会に出て仕事をし、女はそれを支えて養ってもらう』という性別役割分業が浸透していた。だけど“支える”側は自分の給料がないから経済的自立もままならず、立場が弱い。いわば“2級市民”です。
1級市民である男性にひたすら尽くすことが求められ、それが“女らしさ”だと称賛される。反対に、怒りを露わにすれば“女らしくない”と怒られる。男性中心の日本の社会構造が、女性の怒りを抑圧してきたことは間違いありません」