私のすべてのエネルギーの源は「怒り」です──。そう断言して、戦時下のウクライナを訪れたのは、タレントであり国際社交家でもあるデヴィ夫人(83才)。昨年2月に勃発したロシアによる侵攻後、ウクライナ国民を支援するチャリティー活動に励んでいた彼女は、今年1月下旬に同国の首都キーウを訪問して、支援活動や要人との面会をこなした。危険を冒しても人道支援を続ける理由について、デヴィ夫人は過去、インタビューでこう語っている。
《とにかく、私のすべてのエネルギーは怒りから来ているんです。だから今回もテレビでロシアの残虐な侵攻を目にして、怒りで夜も眠れなくなっちゃって》
デヴィ夫人を突き動かした「怒り」。長きにわたって、それを表に出すことは自らを律することができない「弱さの表れ」とみなされ、「アンガーマネジメント」によって“克服するべき”感情だった。特に声を荒らげれば「ヒステリー」と揶揄される女性であれば、なおさらだ。
しかし現在は行動を起こしたデヴィ夫人に称賛の声が集まっているように、きちんと怒りを表明し、行動に移そうとすることをプラスと捉える風潮が生まれつつある。いまや「怒り」は女性の足を引っ張る「負の感情」ではなく、大きなエネルギーとして背中を押し、人生を前に進めてくれる「正の感情」とすら言える。女性たちがいま持っている夫への、職場への、世の中への怒りは、エネルギーに変えることができるのだ。
「生理前だからって、イライラしないでよ」「あの人が怒りっぽいのって更年期だからじゃない?」──ヒステリーと同様、女性の怒りの感情は「生理現象」とひもづけて語られることも少なくない。しかし、最新の知見に基づく医学的見地からすれば、生物学的に、そうした見解は不正解のようだ。東邦大学医療センター大橋病院勤務で産婦人科医の高橋怜奈さんが指摘する。
「確かに生理前や更年期は女性ホルモンの変動でメンタルが不調になりますが、それらが直接怒りという感情に結びつくわけではありません。また、男性もホルモンの影響でメンタルが変動し、うつ状態になりやすくなるなど、性格や言動に変化が出やすいことも明らかになっています。そこに男女差はありません。そもそも、体調によって感情にゆらぎが生じることを悪いことだと捉える風潮にも問題があると思います」
福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授で医師の大平哲也さんは、「怒りをためるとかえって体調が悪くなる」と指摘する。