春爛漫。穏やかな陽気のこの季節。ゆっくりと読書を楽しんでみるのはいかがでしょうか? 今、読みたいおすすめの新刊4冊を紹介します。
『魔女と過ごした七日間』東野圭吾/KADOKAWA/1980円
唯一の家族である元警官の父が殺された中3の陸真。通帳を見ると、未知の男からの振り込みと未知の女性への送金が。不思議な能力を持つ円華(魔女)の助けを借り、親友の純也と共に父の死の謎に挑む。前景は少年の冒険譚ながら、後景には法制化せず国民のDNAデータを秘かに蓄積中の国の動きがある。勘ぐり過ぎと侮るなかれ。この視座が本作で最も読むべき錨だと思う。
『新・教場』/長岡弘樹/小学館/1760円
警察学校の教官となった伝説の刑事、風間公親。助教の尾凪や警官未満の学生達の資質を、非情な眼で査定する。模擬交番研修中のケンカ沙汰、マル暴刑事志望の青年の奇妙な癖、ブラジリアン柔術で通り魔を逮捕した学生、首席候補の女性のストーカー被害など。中でも父母参列の卒業式の最中に起こる放校処分が最凶。エピローグに吉報が。風間の現場復帰の日が待ち遠しい。
『定年後の壁 稼げる60代になる考え方』/江上剛/PHP新書/1133円
49才で銀行を辞めた著者は職安で聞かれた。「不良債権の回収とありますが法的知識は」「ありません」。すると係員はこう言った。「経歴ではなくスキルを書いて下さい」。著者は著述業で成功したが、これは稀有な例。友人や知人の例を引きながら、高給を望むな、専門性がなければ人脈を頼れ、人が喜ぶ仕事に就けと助言する。笑顔で働く高齢者に共通するのは“謙虚さ”だと教わる。
『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』/辻真先/創元推理文庫/990円
敗戦後、占領軍の指導で学制は男女共学の6・3・3制に。その新設高校で映研と推研の生徒らが密室殺人と首切り殺人に遭遇する。本格推理の遊戯性以上に当時の世相を刻む記録文学の要素が貴重。報道されなかった南海トラフ震源の巨大地震、民主主義者に豹変する大人の保身、「新日本女性」と謳う米軍慰安婦募集など、不都合な真実を歴史の法廷に引きずり出す筆に圧倒される。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年4月20日号