国内

「常に怒りが原動力」91才の現役映画監督・山田火砂子さん「13才で体験した東京大空襲から怒りが続いている」

91才で現役の映画監督・プロデューサーとして活躍する山田火砂子さん(時事通信フォト)

91才映画監督の山田火砂子さん(時事通信フォト)

 一般的に「怒り」は慎むものと思われがちだが、時には怒りがエネルギーとなり、新しい何かを生み出すこともある。91才で現役の映画監督・プロデューサーとして活躍する山田火砂子さんも、「私は常に怒りが原動力ですよ」と笑顔で語る。東京生まれの山田さんは戦中派で、13才で東京大空襲を経験した。

「右も左も前も後ろも火が上がってものすごい爆風に吹き飛ばされそうになりながら必死に逃げて、みんな焼けてしまった。その日からずっと、怒りが続いているんじゃないでしょうか。

 当時は貧富の差も激しく、ピアノを持っているようなお金持ちがいる一方で、火葬場の近くに住み着いてお布施をもらってやっと生きている物乞いもいる。『なんで平等にならないんだ』と怒りが湧き起こりました。

 女性差別もひどくて、お金持ちの家であっても、フロックコートを着てステッキを持って胸を張って歩く男性の後ろに子供を背負って両手一杯の荷物を持った奥さんがついて行く。少しでも遅れると『早く来い!』って亭主が偉そうに言う。なんで荷物持ってあげないのよ!って子供心に腹が立って仕方がなかった」(山田さん・以下同)

 消えない怒りの炎を胸に、中国残留孤児をテーマにした『望郷の鐘──満蒙開拓団の落日』(2015年)や日本の女性医師第1号を描いた『一粒の麦 荻野吟子の生涯』(2019年)など、戦争や男女差別を扱う映画を作り続けた。骨太の彼女は常盤貴子(50才)や寺島しのぶ(50才)ら、多くの女優から慕われている。

 もう1つの原点は、知的障害を持つ長女の誕生だという。

「娘を育てているときにダウン症の子にひどい言葉を投げかける人がいて頭にきた。宗教の勧誘もあるし、『これをすれば治ります』なんて言われる。これは障害のあるお子さんを持つお母さんはみんな経験していると思います。世の中に対するどうしようもない憤りがあり、福祉をテーマにした映画を作って世の中の意識を変えようと、40才で映画の世界に入ったんです」

 当事者の視点から多くの福祉映画を製作した彼女の功績もあり、日本の福祉行政は少しずつ進歩した。91才で挑む次回作は、出産と育児がテーマだという。

「いま、子供を産め産めって騒いでるでしょ? だけど3万円とか5000円とかそんな“テラ銭”で産む人なんていないです。大学に行けば数百万はかかるから、勉強したくても諦める子もいる。だから幼稚園から大学まで給食費なんか取るな、学生に奨学金という借金をしょわせるな、軍備のお金を少し回せ、鉄砲の弾なんかいらないって映画を通して言ってやりたいの」

※女性セブン2023年4月20日号

主な作品

山田火砂子さんの主な作品

関連記事

トピックス

山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
「衆参W(ダブル)選挙」後の政局を予測(石破茂・首相/時事通信フォト)
【政界再編シミュレーション】今夏衆参ダブル選挙なら「自公参院過半数割れ、衆院は190~200議席」 石破首相は退陣で、自民は「連立相手を選ぶための総裁選」へ
週刊ポスト
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン