元国交省事務次官・本田勝氏(69)による民間企業「空港施設」への人事介入が波紋を広げている。一報を報じた朝日新聞によれば、本田氏は昨年12月、空港施設に対し国交省OBの同社副社長・山口勝弘氏を社長に昇格するよう要求。その際、「自分は(国交省の)有力なOBの名代」「国交省としてあらゆる形でサポートする」と話したとされる。山口氏自身も自ら副社長の椅子を求めていたことが報じられ、4月3日付けで副社長を辞任した。
渦中の本田氏は2015年に国交省を退官し、現在は東京メトロの代表取締役会長。今回の人事介入の背景について全国紙記者が語る。
「本田氏は国交省時代から空港畑で、羽田空港のハブ化を推し進めてきた人物です。『羽田をアジア一のハブ空港に』の大号令の下、発着便の大増枠を仕掛けてきましたが、思うように進まず、韓国の仁川空港やシンガポールのチャンギ空港に大きく出遅れた。道半ばで退官した本田氏にとって、打倒仁川・打倒チャンギは宿願だったはずです」
空港施設のトップは代々国交省出身者が務めてきたが、2021年から経営刷新のためにANA出身の稲田健也氏が会長に、JAL出身の乗田俊明氏が社長に就いた。「これに不満があった。再び国交省主導で羽田のハブ化を一層進めたかったのではないか」と前出の全国紙記者は言う。経済ジャーナリストで千葉商科大学教授の磯山友幸氏もこう語る。
「今回の人事介入では国交省の天下り先を取り返そうとする本田氏の意図が見て取れます。空港施設の事業は国交省が許認可を握っており、本田氏にとっては“国交省航空局の持つ会社”という認識だったのでしょう。本田氏が羽田の発着枠を拡大したことで利用者が増え、空港施設の事業拡大にも繋がった。だから俺の言うことを聞け、という驕りがあったように思えます。
長年、官僚は自分の権限が絡む企業に天下りのポストを持ってきたので、私物化できると考えがちです。企業側にとっても、規制でがんじがらめの日本では各省庁とのパイプ役がいると便利ではある。逆らえるはずがないと本田氏は踏んでいたのではないか。ただ、空港施設は上場企業なのでコーポレートガバナンスで社長人事を透明化しなければなりません。時代感覚がズレていることに本田氏は気付いていなかった」
一連の本田氏の言動について航空施設に聞くと、「当社は東証プライム上場企業であり、より厳格なコーポレートガバナンスが求められているところ、本田氏より人事の話題を持ち出されたことには非常に唐突感を覚えました」(広報・IR部)との回答だった。
本田氏が会長を務める東京メトロにも聞いたが、「当社としてコメントする立場にはないため、回答は差し控えさせていただきます」(広報部)とのこと。騒動はどこに着地するのか。
※週刊ポスト2023年4月21日号