人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、マラリアについてお届けする。
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蚊が病原体を媒介する感染症の中でも多くの犠牲者を出しているのが、マラリアです。
日本では現在はマラリアの流行はありませんが、海外渡航者による発症の報告はあり、コロナ以前は年間約100人が海外で感染、帰国後に発症していました。
世界的には熱帯・亜熱帯地域で流行し、死亡者の多くはサハラ以南のアフリカの5歳未満の子供たちです。また、東南アジアや南アジア、パプアニューギニアやソロモンなどの南太平洋諸島、中南米などでも多くの発生があります。
これらの流行地に育ち、何度も罹って免疫を得ている場合とは異なり、日本人はマラリアの免疫を全く持たないため、感染すると診断や治療の遅れで致命的となることもあります。
原体はマラリア原虫で、人はこのマラリア原虫を持つハマダラカに吸血されて感染します。マラリア原虫が体内に侵入すると、好んで赤血球に寄生し無性生殖(多数分裂)で増え、次々と赤血球を破壊していくのです。
マラリアには熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリア、サルマラリアがあります。発熱、悪寒、震えと共に38℃以上の熱発作に見舞われて発症し、頭痛、悪心、倦怠感などの症状が出て、マラリア原虫が赤血球を破壊して血液中に放出されるタイミングで、周期的に発熱を起こします。その周期は、三日熱と卵形マラリアでは48時間ごと、四日熱では72時間ごととされますが、熱帯熱マラリアでは不定期で短く、高熱が続くことになります。
症状が進むと貧血や皮膚や白眼が黄色くなる黄疸が現われ、さらに進行すると肝臓や脾臓が腫れて、出血を止める働きをする血液中の血小板が減少していきます。特に熱帯熱マラリアは重症化しやすく、脳症、腎症、肺水腫、出血傾向、重症貧血など、さまざまな致命的な合併症を引き起こします。
ですから、熱帯熱マラリアはできるだけ早く治療を開始する必要があります。発症してから治療開始までの期間が6日を超えると致死率が非常に高くなります。