医学の世界は日進月歩。なかでも世界中で日増しに増えているのが「超加工食品」に関する研究だ。米ボストン在住の内科医・大西睦子さんが指摘する。
「最近、アメリカのメディアや学術専門誌でこの言葉を頻繁に目にします。実際に医学・生物学の学術文献の検索サイト『PubMed(パブメド)』で“ultra-processed foods(超加工食品)”という単語を検索すると、2000年に公表された関連論文は202本でしたが、2022年には約2200本と10倍以上になりました。膨大な数の論文が次々に発表されており、医学界でいかに関心が高まっているかを物語っています」
超加工食品は簡単にいえば、「食品添加物や油脂などをたっぷり加えた食品」のことで、インスタント食品や菓子パン、スナック類など多くの人が好む「早くて、安くて、おいしい食べ物」が該当する。
「ここ20年の論文増加が示すように、欧米では超加工食品と健康の関係が注目されています。しかもその多くは“超加工食品を多く食べる人は病気にかかったり、健康状態が悪化する率が高くなる”という負の内容です」(大西さん)
健康への弊害が指摘される一方で、近年、超加工食品の消費量は世界的にみても増加傾向にある。フランス在住のジャーナリスト・羽生のり子さんが語る。
「新型コロナで多くの被害者が出たフランスでは、一時的に生の肉や野菜を買ってきて調理する内食志向が高まりました。しかし現在は外食する人が戻ってきたうえ、急激な物価高に対抗するため安くて手軽な食べ物を求める傾向が逆戻りしました」
その風潮は日本も同様だ。食品ジャーナリストの郡司和夫さんがこう続ける。
「日本でもコロナ禍で外食が減り、家で食事をする傾向が強くなりましたが、食材を買ってきてイチから調理するというわけではなくレトルトやインスタントに頼る人が多い。メーカーはそうした需要に応えるべく、家庭で消費する手軽な超加工食品の開発に力を入れています」
消費者問題研究所代表の垣田達哉さんも「いまや超加工食品は日本人の食生活に欠かせなくなった」と指摘する。
「コンビニの弁当やインスタント食品の多くは超加工食品です。また、外食産業でも安さを求める多くのチェーン店が、麺類のスープやパスタソースなど食材の一部として超加工食品を使っています。それらは表示義務がなく『ステルス(隠れた)超加工食品』として世に出回り、多くの日本人が知らないうちに超加工食品を口にしています」
かつてなく身近になった超加工食品。しかしその距離が近づくほど、私たちの体は蝕まれていく。