同じフィールドで戦う選手たちからも“雲の上の存在”として語られることの多いエンゼルスの大谷翔平(28)。その比類なき「才能」と「努力」は見る者に夢を与える一方で、ともに戦う仲間をも“圧倒”してしまう現実がある。
「自信を打ち砕かれました」
「正直、野球だけでなく人格まで含めてすべてが凄かった。こいつには何ひとつ勝てないと思いましたよ。僕は一軍経験がないまま引退したけど、土俵がまるで違っていた」
そう語るのは、2012年にドラフト4位で日本ハムに入団した宇佐美塁大氏(28)だ。この年、日ハムがドラ1で強行指名したのが大谷翔平だった。
ドラフトの当時、日本のプロ野球を経由せずメジャーに挑戦する意向を表明した大谷の入団交渉が長引いていた。そのため、宇佐美氏と大谷が初めて顔を合わせたのは入団会見ではなく、新人合同自主トレだった。
そこで大谷の打撃練習を見た宇佐美氏は衝撃を受けた。
「まだ入団したばかりの高校生なのに、センターから逆方向のスタンドにポンポン放り込むんですよ。そんな選手は初めて見ました。僕は広島工高で通算45本塁打の記録を持っていて、“高卒ルーキーでは自分が一番だ”と思ってプロに入りましたが、翔平のバッティングを目の当たりにして自信を打ち砕かれました」
2013年のシーズン、大谷はルーキーながら開幕一軍入りを果たし、いきなり二刀流で活躍したが、宇佐美氏は二軍暮らしが続いた。
時は流れ、大谷がケガのリハビリ明けで鎌ヶ谷の二軍グラウンドで調整していた2017年、忘れられない出来事があった。
「フリーバッティングで勝負しよう」
大谷が宇佐美氏にそう持ちかけ、打席に入った。
「ケガ明けでどうなるかと思いながら勝負しましたが、翔平が打った打球は凄い勢いで飛んでいき、反対方向の防護ネットの上部に突き刺さった。余裕で負けました(苦笑)。あの打球は今も忘れられません」(宇佐美氏)