コロナ禍で定着したマスク生活。そんななかで、自分の口臭が気になるという人も多いだろう。では、口臭を撃退するにはどうすればいいのだろうか。長年、においとその対策について研究を重ねてきた中城歯科医院院長の中城基雄さんが解説する。
「あらゆる悪臭に対して、消す方法は4つだけです。1つは吸着。冷蔵庫の消臭剤がそれに当たります。活性炭のようなにおいを吸収する物質に吸着させるやり方です。2つめは分解。プラズマクラスターのように分子構造の鎖を切り、構造を変えることでにおいを消す。3つめは中和。生魚のにおいの原因物質であるトリエチルアミンを酢で中和するお寿司がその一例です。4つめはマスキング。トイレの芳香剤と同じで、悪臭に別のにおいを重ねて、ごまかす方法です」
口臭の場合、どれを選ぶのが正解なのか。
「最も手軽なのはマスキングです。清涼感のあるマウスウオッシュでにおいを消しつつ、歯磨きをする。ただし、これは対症療法です。根本的に解決するなら分解と吸着を目指しましょう。分解は歯科で専門に扱っている除菌薬を使って口腔内を殺菌すること。歯石を取ることも口臭予防に有効です。ガムを噛むこともにおいのもととなる菌を吸着する効果がある。唾液分泌も促され、一石二鳥です」(中城さん)
東陽町歯科医院院長の大谷直さんもマウスウオッシュを推奨する。
「マウスウオッシュは液体なので口の隅々まで行き届いて、歯磨きでは取れなかった汚れも除去できる。殺菌作用が高いものも多いので有効です」(大谷さん・以下同)
ただし、間違った使い方をすれば逆効果になる。
「口の中には口臭の原因になる菌もいますが、口腔内の環境を良好に保つために必要な菌もいる。殺菌作用が強いものを過剰に使用するのは避けてください。
商品記載の用法を逸脱した使い方はNGです。また、爽快感があるため歯磨きの代用として使う人も多いですが、マウスウオッシュはあくまでも補助的なもの。ブラッシングは忘れずに行ってください」
ドラッグストアにずらりと並ぶ歯磨き剤は、成分に注目して選ぶべし。
「買う前に虫歯の発生を予防する効能を持つ『フッ素』の含有量をチェックしてください。厚生労働省の規定では上限1450ppmと定められており、上限ぎりぎりまで入っているものがいい。初期の虫歯であれば再石灰化するといわれているし、歯周病ケアにもなります。また、歯ブラシと並行してデンタルフロスと舌磨きもおすすめします。自分で取れない歯石を除去するために、定期的に歯科医院に通うことも重要です」
ブレスケアと並行して取り組みたいのは唾液量を増やすことだ。まずチェックしたいのは自分がどれくらいの唾液を出せているか。チェックリストで確認しつつ、「痛いけど気持ちいい」くらいの力加減で唾液腺マッサージを実践してみよう。
唾液の量や、それに伴う口臭で自分の健康状態を知ることもできる。
「唾液の“原料”は血液です。つまり血流が悪ければどろどろした唾液になるし、貧血の人は分泌量が少なくなる。
唾液は健康のバロメーターでもあるのです。そのため、血流を促して血液量を増やすことも口臭撃退につながります。バランスのいい食事を摂って適度に体を動かし、体全体の健康を整えましょう」(中城さん・以下同)
中城さんが特に推奨するのは血液の原料となる鉄分を含有する食品と、鉄分をしっかり吸収するために必要な胃酸の分泌を促すクロロゲン酸を含有する食品だ。
「鉄分を補給してヘモグロビンを増やしてくれるのが良質なたんぱく質です。肉、魚、卵、乳製品、大豆製品などをしっかり摂るのと同時に、それらに含まれる栄養素の吸収効率を上げるビタミンCを豊富に含む果物や野菜を一緒に食べると効果的。胃酸の分泌を促進するクロロゲン酸はコーヒーやさつまいも、じゃがいも、りんご、ごぼうなどに含有されています。反対に、鉄分の吸収を阻害してしまうインスタント食品や加工食品は、できるだけ避けた方がいい」
たかが口臭と思いがちだが、重大な病気の兆候であることもあるようだ。
「体から出る危険なシグナルのうち、最初のサインがにおいです。それを読み取れれば大病をする前に予防することができる。
例えば食事制限だけのダイエットをしている人は油っぽいにおいが口臭として出てくる。無理なダイエットを続けると、体は脂肪を溶かして栄養にしようとするため血流に脂肪酸が溶け出し、天ぷら油のようなにおいが発生するのです。糖尿病の人はバナナのようなにおいが、腎臓病の人は魚の腐ったようなにおいがすることも知られています。気になったら病院にかかった方がいい。体の発するサインを聞き逃さないでください」
まずはマスクを外し、空を仰いでみることから始めてみよう。
※女性セブン2023年5月4日号