ダイエットを成功させるには、食生活を見直すだけでなく、食欲と味覚についての知識を得ることも重要だ。食べ物・飲み物の基本の五味は、甘味・塩味・酸味・苦味・旨味。このうち、「苦味」は本能的に有害物として脳が察知するため、多く摂るのを避けようとする作用がある。そのため、「苦味には食欲を抑制する働きがあります」と、歯科医師の宮本日出さんは言う。
「ぼくはもともとこってりしたものが好きで、社会人になってからは麻婆豆腐や焼きそば、揚げ物などをつまみに、毎晩お酒を飲んでいたんです。そんな暮らしを30年続けた結果、体重は79.8kgになってしまい、やせたいと思っていました。
コロナ禍に太ってしまった患者さんからダイエット法を相談されたこともあり、さまざまな論文を読み込んだところ、『レモンを口に含むと苦味に敏感になり、食欲を低下させる可能性がある』という研究結果がありました。それをヒントに、『レモン水うがい』を考案したのです。自分で試したところ、最初の1週間で2.4kgも体重が減りました」(宮本さん・以下同)
レモン水うがいを始めてからは、自然と脂っこいものが食べたいという思いがなくなったという。
「これは味覚変化のなせるわざです。舌が苦味を感じると脳に信号が送られて、苦味がストッパーの役割を果たし、甘味を感じる機能が弱まって食欲が抑制されるのです。このメカニズムにより、私は食べたいものをがまんできるようになり、食事制限を意識することなく、半年で16.7kgもやせられたのです」
味覚は誰もが持っている感覚だが、その感受性は人種間で大きく異なる。苦味を感じない人の割合が、欧米で30%、インドで40%いるのに対し、日本ではわずか10%【※1】だという。
【※1 出典:Drayna, D.: Annu. Rev. Genomics Hum. Genet., 6, 217 (2005)】
「日本人の9割が苦味を感じやすい遺伝子を持っていると推察されます。レモン水うがいは遺伝子的にも合っていると思います」
また、味を感じる味蕾の細胞は年齢を問わず、10日間で生まれ変わるというから、高齢になってからでも効果が期待できる。
「とはいえ、年齢が上がるにつれ、舌の表面に垢(舌苔)がつきやすくなります。舌苔は味を感じにくくさせる原因になるので、毎日、舌ブラシでケアするとよいでしょう。味覚が鈍感な人ほど、試してみると味覚の変化が大きいです」
早ければレモン水うがいを始めて3日で食欲の抑制効果や、体が軽くなったと感じ始めるそうだ。
レモン水うがいのやり方
準備するもの:常温水100ml+レモン果汁小さじ1(5ml)
(濃度約5%のレモン水を作る〈1日3回分〉)
【1】レモン水を約5秒間かけて舌全体に広げる
レモン水の約1/3(約30ml)を口に含み、レモン水が舌全体に広がるように舌を動かす。
【2】口を閉じて、約5秒間「ぶくぶくうがい」をする
両方の頬をふくらませたり縮めたりして、舌の上にレモン水がしっかりと広がるよう、素早く「ぶくぶくうがい」をする。
【3】頭を後ろに傾け、約5秒間「ガラガラうがい」をする
頭を後ろに傾け、下顎を上に突き出すようにし、口を少し開けて行う。
舌ブラシによる舌磨きの方法
舌の奥にある苦味を感じるところ(中央から奥の部分)に汚れがたまりがちなので、重点的に磨くこと。歯を磨くときの半分くらいの力を入れて、舌の奥から手前に向け、ブラシをやさしく動かす。毎日の歯磨き後、1日3回行うとよい。
【プロフィール】
歯科医師 宮本日出さん/幸町歯科口腔外科医院(埼玉県志木市)院長。口腔外科評論家。国内外で160編以上の論文を発表。『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)や『あさイチ』(NHK)などにも出演。
取材・文/山下和恵
※女性セブン2023年5月4日号