岸田文雄・首相が衆院補選の応援演説で訪れた和歌山県の雑賀崎港で爆発物を投げつけられた事件で、兵庫県川西市の無職・木村隆二容疑者(24)が威力業務妨害容疑で逮捕された事件。動機などについては未だ黙秘を続けている容疑者。昨年6月には、年齢などを理由に参議院議員選挙に立候補できなかったのは憲法違反だとして、国に損害賠償を求めて神戸地裁に本人訴訟を起こし、同年11月に棄却されている。
同訴訟の準備書面では、木村容疑者は次のように綴っていた。
〈成年年齢に達したものが民法第4条上「大人(心身が発達して一人前になった人。成年に達した人間(goo辞書〈成人〉から引用))」である以上、満23歳の原告が第26回参議院議員通常選挙に於いて被選挙権を有しないとされることは、満30歳と同じ「大人」であるにも関わらず、原告が社会的経験に基づく思慮が十分ではなく、その分別を有しないとされる差別であり、憲法14条の「平等原則」に反する〉
木村容疑者が起こした訴訟について、「それなりに理屈は通っていますが、あくまで政治的不満でしかなく、この問題は、法的には決着している」と話すのは、憲法学者で慶応大学名誉教授の小林節氏だ。
「木村容疑者が訴えていることについては、最高裁で判例が既に出ている。だから地裁もその最高裁の判例を下敷きに判決をまとめているのです。
最高裁の判例の概要を説明すると、『選挙制度の具体化は憲法上、国会の裁量事項で、著しく不合理でない限り、立法の不作為・意見とはならない』ということや、『二院制の参議院には慎重な審議が期待されているから、衆院議員より5歳上の立候補年齢制限を課していることには合理性がある』などが結論となっています」(同前)
今回は、弁護士をつけずに国に対して「本人訴訟」を起こしていたことが話題になった。だが、小林氏によると、「このような単純・明快な政治的主張ならば、本人訴訟でもできる」のだという。
「2000年頃から進められてきた司法制度改革の中に、『司法の民主化』というものがありました。これに基づき、政治の問題などがある場合には、どんどん裁判で訴えることができるように、裁判所が体制を整えたのです。
その方針に従い、誰でも裁判所に行けば、地裁や簡裁の書記官が指導してくれる制度になっている。訴状の雛型を示してくれて、どのように書けばいいか細かく教えてくれます。
今回のケースについて、木村容疑者がどのくらいの法律知識があったのかは分かりませんが、素人でも、訴えたい内容を提示すれば、裁判所の書記官が『これこれこういう法律がある』とアドバイスしてくれますし、賠償額もどうするとよいか教えてくれるのです」(同前)
この件を提訴するにあたって「10万円」を請求している木村容疑者。その金額について、小林氏はこう見る。
「10万円にした理由は2つあると考えられ、1つは、原告はカネが欲しくてやっているのではなく、名誉のためにやっているということを示すためだということ。
もう1つが、『10万円なら印紙代が安いから』でしょう。1億円の賠償を求めるのも可能ですが、そうすると必要な印紙代が高くなる。10万円であれば、印紙代は最低の1000円で済みます」
木村容疑者は、神戸地裁に棄却された後、大阪高裁に提訴している。その判決は今年5月に出る予定だ。