中国の検察当局は、4月下旬に全国人民代表大会(全人代=国会に相当)でスパイ行為を摘発する「反スパイ法」改正案が成立したことをうけて、日本の外交官に国家機密を漏らしたとされる中国紙「光明日報」編集長や、台湾の分離独立を図る活動を行っていた台湾人ら3人を逮捕していたことを明らかにした。
改正反スパイ法が成立したことで、「国家の安全と利益」に関わる動きを幅広く取り締まるとともに、従来よりも摘発対象を広がるだけに、中国当局によるスパイ摘発の動きが強化されることが予想される。
米紙「ニューヨーク・タイムズ」などによると、逮捕された光明日報の董裕宇氏は、編集長と解説部副部長を兼務していたが、昨年2月、日本の外交官と昼食中に当局の尋問を受け、そのまま連行され機密漏洩罪の疑いで逮捕されたと家族の証言で明らかになったという。
董氏は1989年の天安門事件で民主化運動に参加し、その後、鉄鋼工場で1年間働かされた後、北京に戻り、「光明日報」の仕事を続けていた。在職中に、米ハーバード大学で1年間、ジャーナリズム専門の研究員を務めるなど、改革志向であることで知られていた。
董氏は外交官やジャーナリストを含む外国人と定期的に会い、執筆のための材料を集めることもあったことから、当局は董氏が外国のスパイとなって情報を提供していたとみなしていたという。
一方、浙江省温州市国家安全局と検察院はこのほど、台湾の分立独立を図るため中国内で活動をしていたとして、台湾人男性の楊智淵氏を起訴した。楊氏は「台湾が主権独立国家になり、国連に加盟することを推進する」ことを目的とした「台湾国民党」の創設者の1人で、副会長兼議長代理を務めていた。
また、中国で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室は4月下旬、台湾の出版社「八旗文化」編集長の李延賀氏が「国家安全を脅かす活動に従事した疑いで国家安全当局の調査を受けている」ことを明らかにした。李氏は中国遼寧省出身で、中国籍を保有しており、今年3月中旬に上海に到着してから3、4日後に身柄を拘束された。李氏は家族の墓参りや病気の母親を見舞う予定だったという。
これほど短期間に3人の中国・台湾人の逮捕などが明るみに出るのは極めて異例といえる。改正反スパイ法の成立と合わせて、当局が取り締まり強化に乗り出しているとのシグナルを発している可能性が強い。