国内患者数は約580万人と推定される「脊柱管狭窄症」は、国民病の一つと言えるだろう。加齢とともに背骨のなかの神経の通り道が狭まり、神経・血管が圧迫されることで、足腰が痛みや痺れに襲われる。一般的に50代以降で症状が現われるとされ、そのまま長く悩まされる人が多い。症状が悪化すれば、尿漏れや便秘といった排尿・排便障害にもつながる。さらに厄介な点もある。
腰痛治療のエキスパートとして知られる徳島大学医学部教授(運動機能外科学)の西良浩一医師が語る。
「脊柱管狭窄症は、医療機関を受診して薬を飲んでも、一時的に痛みを緩和させることはできますが、根治させることは難しい。ただ、『運動療法』が症状の改善に有効であることが様々な研究で示されています。我々の病院でも脊柱管狭窄症に対しては、“エクササイズ・イズ・メディシン(運動は薬である)”として運動療法の指導に力を入れています」
では、どのようなエクササイズが脊柱管狭窄症の改善に有効なのか。西良医師は「ポイントは腰以外を鍛えること」だと語る。
「体の各部の関節には、大きな動きに適している『モビリティ関節』と適していない『スタビリティ関節』の2種類があります。腰の上に隣接する『胸椎』の関節や腰の下の『股関節』などは前者、腰の関節は後者にあたりますが、脊柱管狭窄症は加齢や筋力低下にともなって胸椎や股関節などの柔軟性が失われ、腰の関節ばかり酷使するために起きるのです。
つまり、“腰はなるべく固定された状態にして、その周囲の関節や筋肉を柔軟に動かせるように鍛えること”が症状の改善につながります」
西良医師が病院で取り入れているエクササイズのなかには、自宅のベッドで寝ながら簡単にできるものも多い。その一つが、うつ伏せの状態で、息を吐きながら腕の力で上体を反らす「スフィンクスのポーズ」だ。
「胸椎が丸く固まるようになると、猫背に慣れてしまい、ひいては脊柱管狭窄症につながります。『スフィンクスのポーズ』は、そんな胸椎の柔軟性を取り戻すエクササイズです。ポイントはへそが浮き上がらないように意識して、痛みを感じない程度に上半身を反ることと、胸を広げるように意識して伸ばすこと。このエクササイズで顕著な改善効果が現われた患者さんも多くいます。
ゴルフをする人は、『胸椎のひねりを意識しましょう』とアドバイスされることがあると思いますが、胸椎を“反る”“ひねる”運動は普段から意識的に取り組んだほうがよいでしょう」(西良医師)
毎日たった50秒(1セット10秒×5回)だけだ。