汗ばむ陽気になる日が増え、夏の兆しを感じるようになった。そんな時期にも、部屋の中で読書を楽しむのもいいだろう。おすすめの新刊4冊を紹介する。
『くもをさがす』/西加奈子/河出書房新社/1540円
家族3人でカナダ滞在中の2021年5月。発疹で病院に行き、胸のシコリも診てもらう。8月乳がん宣告。半年に及ぶ辛い抗がん剤治療を経て翌3月手術。両乳房全摘、再建も希望しなかった。そして今そんな自分の体が大好きだという。が、戻ってきた日常には寂しさがまじっていた。これは何? 繊細な明るさの糸で感情の蜘蛛の巣を編むノンフィクション。著者の源に触れる。
『悪口と幸せ』/姫野カオルコ/光文社/1760円
中にこんな一文が。世間では女のルックスが(賢さなど)「ルックス以外の要素を上回ってしまう」。一言だと美人はお得ってこと。王女姉妹を描く少女漫画、漫画の大女優に憧れた女優さぎり、有名芸能人の両親から生まれた2世タレントモデルなど、昭和~現在までを濃縮するルッキズム史。これはあの人のことかもとイヒヒの視点で読む背徳感。辛辣の飴をしゃぶってしまう。
『藤子・F・不二雄SF短編 コンプリート・ワークス1 ミノタウロスの皿』/藤子・F・不二雄/小学館/1111円
ミノタウロスとはギリシャ神話に登場する牛頭人身の生きもの。宇宙で遭難し彼らが支配する星に降り立った飛行士は一人の少女に恋をする。が、ミノタウロス祭りで優勝した(食用牛の)彼女は、ミノタウロスの皿として供されることに誇りを感じ……。ミノタウロスを人類に置き換えれば地球でも同じことが行われているという痛烈な皮肉。全11編ブラックな結末に吸い込まれる。
『起死回生 東スポ餃子の奇跡』/岡田五知信/エムディエヌコーポレーション/発売 インプレス/1650円
知らなかった、「日付以外すべてギャグ」として愛される東京スポーツ新聞が食品に乗りだしていたとは。業界全体の危機に餃子槍で立ち向かった顛末。TV業界の著者も他人事ではなかったのかも。餃子は(原価が高い)青森ニンニクマシマシ。餃子好きとしてはおっちゃんだけに独占させておくものか。読めば我が田舎のラーメン店に採用済み。お~し♪帰省したら食べに行こう。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年5月25日号