日本一有名な歓楽街に、新たなランドマークが誕生した。4月、東京・新宿にオープンした『東急歌舞伎町タワー』は、映画館やライブハウスといったエンターテイメント施設やホテルで構成された地上48階、地下5階建ての超大型施設だ。その足元に広がるのが、歌舞伎町の住人や行き場のない若者の“たまり場”としてここ数年で大きく知名度を上げた「トー横」だ。華々しく開業した“新シンボル”を目当てに国内外の老若男女が歌舞伎町を訪れる一方、そこから見下ろされる広場の住人には、大きな変化が起きていた――歌舞伎町の住人たちを取材した著書『ホス狂い~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』を持つノンフィクションライターの宇都宮直子氏が、前後編でレポートする。その前編をお届けする。
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「お願いがあるんです。今度裁判なんですけど着る服がなくって。僕がモデルをやっていたアパレルの社長に連絡して、ジャージを差し入れるよう伝えてくれませんか?」
そう語るのは「インフィニティ」ことハセベ・フェルナンデス・マルコス被告(36才)だ。ハセベ被告は今年2月、東京・歌舞伎町のコンビニエンスストアで店員を「殺すぞ!カス!」などと恫喝したとして威力業務妨害などの疑いで逮捕されていた。東京拘置所のアクリル板越しの彼は、トレードマークの肩までの金髪に、蛍光カラーの派手な模様の入ったジャージ姿。長身を丸めるように縮めながら、こちらの目をまっすぐに見て、時には聞き取れないほどの早口でまくしたてるようにしゃべる。
彼はかつて「トー横」の有名人だった。
トー横広場は、新宿・歌舞伎町のTOHOシネマズが入るビルの横の路地、シネシティ広場のこと。2019年頃から若者たちが集まって酒を酌み交わし、2020年にもなると、未成年たちを巻きこんだ事件が多発、社会問題化するようになっていた。