気温が25度を超える日も増え、夏の気配を感じられる季節になった。こんな時期は、部屋の中で涼みながら読書はいかが? おすすめの新刊4冊を紹介する。
『夜空に浮かぶ欠けた月たち』/窪美澄/角川書店/1870円
同級生に威圧されて心の風邪をひく女子大生、空気が読めない様を同僚に「ADHDじゃねえの」と揶揄されるダメサラリーマン、夫の何気ない(無神経な)一言で産後鬱が加速する新米ママなど、どこか欠けたものを抱える人々。彼らの杖となる純喫茶の女性オーナーと椎木メンタルクリニックの夫婦にも隠されたドラマが……。こんな優しい町があったら引っ越したいと思わせる。
『香港警察東京分室』/月村了衛/小学館/1980円
米国で中国秘密警察逮捕のニュースを目にしたばかりで本書を手に取る(日本でも秋葉原などにあるとの報道が)。ただしこちらは警視庁に新設された公認の「共助」部署。日本の支援者達に匿われた香港の民主活動家キャサリン・ユー元教授の身柄確保に警視庁や香港警察の個性的な男女の捜査官達が派手な追跡劇を繰り広げる。キレとスピードは一級品。画竜点睛の哀話も沁みる。
『まちがえる脳』/櫻井芳雄/岩波新書/1034円
人工知能がヒトに追いついたとして「シンギュラリティ来た〜」と興奮する学者さんがいる一方で、著者は「ヒトの脳(の機能)はそもそもまだ解明されていない」とする立場。例えばAIが得意な画像認識にしてもパンダが雄羊になったりテディベアになったりする。一言にすれば、AIは局所的にヒトを真似られるが脳全体にはなれない。科学の現在地を見極めるのに格好の書。
『今度生まれたら』/内館牧子/講談社文庫/858円
結婚して48年、夏江さんは70の自分に衝撃を受ける。女の幸せは結婚として女性社員憧れの和幸を落としたものの、今や夫は出費にうるさいケチジイサン。「今度生まれたら和幸とは結婚しない」と思わず呟く。ぶりっこ恋愛、寿退社、専業主婦。昭和の王道を歩んだ夏江さんが“世に貢献する得意技”を取り戻すまでの試行錯誤に共感する人も多いはず。歯切れのいい文章が痛快。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年6月1日号