香港の中立系紙「明報」で40年間にわたり続いてきた風刺漫画家の連載が、突然打ち切りとなった。しかし、明報はその理由を明らかにせず、たんに「掲載停止」を告知する短い文章を載せただけだったことから、その背景には香港政府の圧力があったのではないかとの観測が浮上している。
ことは、それだけでは収まらず、香港の公立図書館がこの漫画家の本を撤去したことが明らかになり、ネット上では秦の始皇帝(前259~前210年)が本を燃やし儒者を穴埋めにするなどの思想弾圧事件である「『焚書坑儒』の香港版」だと批判が高まっている。香港メディアなどが報じている。
この風刺漫画家は、ペンネーム「尊子」こと黄吉軍氏。1978年に香港中文大学美術学部を卒業し、1983年から「遵子」「吉文」のペンネームで明報に時事漫画や政治漫画の連載を開始。また、反中国色が強い「リンゴ日報」(2021年6月24日廃刊)などでコラムも連載していた。
尊子の漫画は中国政府や香港政府の政策などを風刺する作品が多く、半年間で6回も香港政府から抗議を受けている。例えば昨年10月には、香港政府が厳しい統治を受け入れる人材を優先的に採用することを風刺した漫画が掲載された。中国国旗などを持ち出して中国に忠誠を誓う人物などを描いており、「香港のイメージを損なう」などと香港政府関係者が同紙に抗議したと伝えられている。
また、打ち切り直前の5月9日付同紙に掲載された作品では、香港区議会選挙の改革を風刺し、「テストの点が高いだけで、能力がない者」だけが立候補できるなどと区議会議員候補を揶揄していた。
香港では中国や香港政府に批判的だった「リンゴ日報」の社主だった黎智英(ジミー・ライ)氏が香港国家安全維持法によって起訴、拘留され、同紙も廃刊に追い込まれた。このため、1959年創刊で64年の歴史を持つ明報の経営陣も尊子の風刺漫画への批判の強まりに危機感を募らせていたとの見方が強い。
また、これらの風刺漫画などをまとめた尊子の本も出版されているが、風刺漫画連載の打ち切りが決まった5月11日には香港の公立図書館の蔵書を網羅しているウェブサイトでも尊子の書籍は検索できなくなった。
これ以前にも、香港の図書館では香港が英国領だったことを表す歴史書などが閲覧できなくなっており、尊子の件も含めて、香港の言論の自由度が日に日に低くなっているのは明らかだ。