相鉄線・西横浜駅から徒歩10分、住宅街の一角で白タイルの外壁、モダンな店構えの『白木屋酒店』。カウンターを隔てて酒屋とつながる小さな角打ちスペースには連日地元民が集い賑わう。
「朝一番に来て、一回昼寝しに帰って、風呂上がりにまた来る。それが俺の幸せ」(通い歴20年の70代)と乾き物をつまみに常連客が笑顔で酒を傾けている。
角打ち入り口は一見わかりにくい。酒屋の正面の脇、ずらりと自販機が並ぶ細い通路の奥にあるのだ。
「毎日、自然と足がこの店に向く。今日もみんな顔色がいいね!」(70代、建設業)と勝手知ったる店の引き戸をガラッと開けて、常連客らが次々とやって来る。
店主は3代目、平賀正樹さん(65歳)。長男で4代目の正浩さん(37歳)も「幼い頃から可愛がってもらった地元のお客さんに恩返しをしたい」と一緒に店を盛り立ている。
「隣り合った知らない客同士、『あのさ…』から会話が始まって、くだらない話しかしないけどさ、人間の繋がりができていく、それって最高だよね。
店主とだって他愛もない話しかしないけど、不思議と波長が合うんだよね。客の心を読み取れるんじゃないかなって思うときがあるよ」(20年通う60代)
実は、店主は毎日、訪れる客の名を小さなメモ帳に鉛筆で書きとめているのだ。
「いつ、誰が、来店したか記録しているんだよね。角打ちに来てくれるお客さんの出席簿。これは生存確認簿とも言うね。あの人最近来ないな~って、心配になるからさ」と店主。
「店主は物知りで人徳がある。誰のことも優しく迎えてくれて、心安らぐいい店だよ。何でもよく知っていてさぁ、電化製品のことを質問することもあるよ。ここで待ち合わせして仲間と飲む酒も旨いが、この店は俺にとっては、よろず相談所みたいな存在でもあるな」(70代)。
「ここへ寄るために会社から急いで帰宅します。仕事帰りに立ち寄ると、店主がいつも優しい言葉をかけてくれるのが嬉しくてね。ここで一杯飲むために仕事をしているようなもの。生きがいなんです」(60代、営業職)
地元客が熱愛する『白木屋酒店』の創業は昭和元年、4世代にわたって酒屋の歴史を紡いできた老舗だ。
「祖父(初代)は、元々埼玉・鴻巣の出身だったんだけど、祖父の兄を頼ってこの近く(西区・御所山)に出てきて酒問屋で修行し、その後、店を開いたのが始まり。角打ちは、初代のときからやっています。
サラリーマンだった親父が跡を継いだときは、酒屋稼業の傍ら、町内会の会長もやっていたからね、地域の人たちからの信頼も厚かったよ。親父は81歳で逝ったけど、葬儀には地元のお客さんがたくさん来てくれたよね」(店主)。
4代目を継ぐ正浩さんが、話を続ける。
「じいちゃん(2代目)が、病床で大学生の俺に『おまえもそろそろ覚悟を決めろ』って。その言葉で店を継ぐ腹が決まりました。
子供の頃は酔っぱらった大人の姿を不思議な気持ちで眺めていたけど、こうして今、人生の先輩でもあるお客さんたちと話をするようになって、改めて俺は地元の人たちに育ててもらったんだなぁって思うんですよ。
俺なりに次の世代に繋がるように何か新たなことも取り入れながら、角打ちを続けていけたらいいですよね」