今までこれほど同じ曜日にドラマが集中したことがあっただろうか。今、火曜日に放送枠が新設されるなどし、ドラマが“大渋滞”する事態になっている。なぜテレビ各局は火曜の放送を増やしているのか。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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今春、フジテレビ系の火曜23時台にドラマ枠『火ドラ★イレブン』が新設され、第1弾として『ホスト相続しちゃいました』(カンテレ制作)が放送されています。
平日23時台は以前から、「民放各局が求める若年層が見やすい時間帯なのに、報道番組ばかりで見る番組がない」などの声が業界内外からあがっていました。また、「配信収入が期待できるストックコンテンツとして連ドラの価値が高まっている」という背景からドラマ枠を増やすという改編も理に叶ったものに見えます。
しかし気になるのは、この新枠で火曜放送の連ドラが10作目になること。
実際、今春はテレビ朝日が21時から『unknown』、TBSが22時から『王様に捧ぐ薬指』、NHKが22時から『育休刑事』と22時45分から『おとなりに銀河』(月~木曜の帯ドラマ)、テレビ東京が24時30分から『何かおかしい2』、フジテレビが24時35分から『バイバイ、マイフレンド』、TBSが24時58分から『私がヒモを飼うなんて』(17日で終了し、24日から『スイートモラトリアム』がスタート)、日本テレビが24時59分から『あいつが上手で下手が僕で シーズン2』、TBSが25時28分から『明日、私は誰かのカノジョ Season2』(MBS制作)が放送されています。
しかも24時台で放送時間がかぶっているテレビ東京の『ドラマチューズ!』(24時30分~)と、フジテレビの『火曜ACTION!』(24時35分~)は、同じ昨年10月に新設されたドラマ枠。さらに半年さかのぼると、NHKの『夜ドラ』(月~木曜22時45分~)とTBSの『ドラマストリーム』(24時58分~)も昨春に新設されたドラマ枠です。
これは毎クール35作前後の連ドラが放送される中でも断トツの多さですが、なぜ火曜ばかりこんなに増えていくのでしょうか。
実は昨年だけで5枠も増えていた
まず現在の状況に至った経緯を掘り下げていきましょう。
2010年代以降、火曜放送のドラマ枠で常にポイントとなっているのは22時台。長年フジテレビ(カンテレ制作)の連ドラが放送され、多くのヒット作を生み出していましたが、2010年春にNHKの『ドラマ10』、2014年春にTBSの『火曜ドラマ』が新設され、「22時台に連ドラが3作」という激戦区に一変しました。
しかし、3枠そろって視聴率が低迷したこともあって、2016年春にNHKの『ドラマ10』が金曜22時枠に移動し、フジテレビ(カンテレ制作)も2016年夏で撤退。同年秋から火曜22時台のドラマ枠はTBSの『火曜ドラマ』だけになり、直後に放送された『逃げるは恥だが役に立つ』が大ヒットしました。
火曜22時から撤退したフジテレビ(カンテレ制作)は火曜21時台に移動して放送を続けていましたが、やはり視聴率の低迷で2021年秋に月曜22時台へ再移動。これにより火曜21時台はドラマ枠が消滅しましたが、昨秋にテレビ朝日が新設して現在は3作目の『unknown』が放送されています。
前述した4枠も含め、実は昨年1年間だけで、21時台に1枠、22時台に1枠、24時台に2枠、25時台に1枠の計5枠も増えていたのです。裏を返せば昨年、唯一増えなかった時間帯が23時台でした。その意味で今春に『火ドラ★イレブン』が新設されたのも、「ドラマ枠の数を見ると本当は火曜以外のほうがいいけど、23時台ならギリギリOK」という背景がうかがえます。