香港政府は英国に移住した香港人が香港在住時に積み立てた年金の支払いを認めない方針を決めたことが明らかになった。すでに英国に移住した香港人約9万6000人が年金を受け取れないことになり、その額は約22億ポンド(約3800億円)に上るとされる。
香港政府は未払いの年金の取り扱いについて言及していないが、政府が実質的に「没収」することになり、香港移民への報復との見方が強い。これに対して、英国の90人以上の国会議員や元政府高官らが英国政府に外交的に対処するよう求める書簡を送るなど、国際問題化しつつある。英BBCなどが報じている。
香港の年金型基金は正式には「強制積立金制度(MPF:Mandatory Provident Fund Scheme)と呼ばれ、賃金の一部を就労期間中に労使双方により積み立てて老後の生活費の確保を目指している。香港の高齢化社会に向けて2000年12月から18歳以上65歳以下の香港人に適用された。
基本的に65歳の定年から年金の支給を受けることができるが、その資格は香港政府の身分証を持っていることが条件だ。しかし、中国政府は2021年1月、香港人が英国に移住した際に取得した英国国民海外旅券(BNO)については、身分証明書として認めないと発表したため、BNOで移住した香港人は年金受給の資格を失う恐れが出ていた。
現在、約15万人の香港人がBNOビザで英国に移住しているが、今後も増え続ける見込みで、2025年までに最大で計32万人が移住するとみられる。
クリス・パッテン元香港総督やマルコム・リフキンド元英国外務大臣、イアン・ダンカン・スミス元保守党党首ら英国三大政党の主要議員や元閣僚を含む90人の実力者が連名で英国政府に対して、中国政府と交渉するよう求める書簡を送っている。
中国政府は香港市民が海外に移住して人材不足が深刻化することに強い危機感を抱いている。香港の労工・福利局長(日本の厚生労働大臣に相当)はシンガポールなど東南アジア諸国を訪れ、香港での就労者を募るキャンペーン活動を行うなど、金融業やIT関連分野など香港の主要企業などでの人材不足を補おうと躍起になっている。中国としては、デモ禁止などの締め付けのほか、年金支給拒否など執拗に嫌がらせをしてでも人材をつなぎ留めたいところだが、現状のままでは香港からの人材流出は止まりそうもない。