《恒産無き者は恒心無し》──これは「物質面での安定がないと、精神面で安定しない」という意味の孟子の言葉だ。このことわざを用い、中学校の卒業文集でいかにお金が大切かをつづった少年はその後、日本中を震撼させる事件を引き起こすことになる。
田園風景が広がる長野県中野市ののどかな集落で突如、銃声が鳴り響いたのは5月25日のことだった。警察官を含む男女4人を約10分のあいだに次々と殺害し、両親と暮らす自宅に約12時間立てこもった末に身柄を確保されたのが、青木政憲容疑者(31)だった。中野市市議会の元議長(26日に辞職)・青木正道氏(57)の長男でもある。地元住人が家族について語る。
「青木家は市内で13代続く果樹園を所有しています。シャインマスカットなど収穫したフルーツを使ったジェラート店も手掛けていて、県内で2店舗を展開しています。お父さんは議員を5年ほどつとめていて、地元では有名な方。お母さんも多趣味で、フラワーアレンジメントやフルーツカッティング教室で先生として教えていたりと活発な方です。それでいて決して嫌味のない人で、地元や学校行事での当番もすすんで引き受けてくれるタイプでした」
野球部のレギュラーを取られそうになって
地元で評判だった両親。そのもとに生まれた青木容疑者は一体どんな少年時代を過ごしていたのか。前出の卒業文集には《幼稚園の年中の頃より、様々な戦争映画や、洋画ばかりビデオを借りてきて見ていた》とも書かれていたが、周囲からの印象は違ったようだ。容疑者の知人が語る。
「小学生の頃の彼は明るく活発でハキハキ喋っている子という印象だったから驚いた。小学校の頃から野球をやっていて、やんちゃでもあったし、一方でしっかりしたところもあった」
小学校の卒業文集に書かれた将来の夢は「医者」。地元の名士の家に生まれた青木容疑者は順調に地元の中学校に進学し、好きだったという軟式野球を続けた。野球部でチームメイトだった同級生の母親が語る。
「学校には毎日来ていて、成績も優秀だったと聞きます。彼のポジションはキャッチャーで2年生までは一緒に野球をしていたそうですが、3年生になると練習に来なくなってしまったとか。後輩の2年生に上手な子がいたそうで、レギュラーを取られそうになってやる気をなくしてしまったのかもしれませんね。青木くんはあまり積極的に喋るタイプというより、落ち着いたタイプだったそうで、親友と呼べるような友達がいた記憶はないと聞きました」