病院に行けば「国民皆保険制度」のもと、最低限の医療費でほしい薬が処方される日本。ただし“薬大国”で手に入る有象無象のカプセルやシロップ、顆粒や錠剤の中には「なぜこれが市場に出回っているのだろうか?」と専門家が首をかしげるようなものもある。薬の裏も表も知り尽くした三者が、匿名だからこそ明かせる本音を語り合った。【全4回の第2回。第1回から読む】
【座談会に参加してくれた医師・薬剤師・製薬会社の3人】
A子/40代の薬剤師。処方薬局勤務で、ドラッグストアで働いた経験もある。
B男/50代の内科医。大学病院勤務ののち、クリニックを開業。
C美/40代の大手製薬会社研究職。
B男:「なるべく患者さんにはのんでほしくない」と思うのは、鎮痛剤のロキソプロフェンでしょうか。もちろん自分もなるべく使わないようにしているし、のむならアスピリンやアセトアミノフェンなどにしています。製薬会社のかたは痛み止めもいろいろ扱っていると思いますが、どうですか?
C美:私も周りの同僚も、やっぱりB男先生と同じようになるべくのまないようにしています。確かによく効くからつい手を伸ばしてしまいそうになるんですが、のみすぎて胃潰瘍や腎障害になったという話は枚挙に暇がない。
A子:そもそも、もともとは処方薬としてしか流通していなかった強い薬がいま一般薬として誰でもすぐに手に入るなんて、怖くないですか?
頭痛や生理痛で手放せないという人も多いですよね。実際、ドラッグストアに勤めていたとき、「薬が切れちゃって……」と青い顔で店に飛び込んで来てロキソプロフェンを買っていった人がいましたが、まるで中毒者のようで……。しかも薬の成分が体内に残ると、頭痛がかえってひどくなるケースも報告されているから、何かあったらロキソプロフェンをのめばいいと依存状態になってしまうのは危険。
C美:のみたくなってしまう気持ちはわかりますが、服用は最小限に留めてほしい。製薬会社としては、たとえばアレルギー薬なら“1週間服用しても症状が改善しない場合や、改善が見られても2週間を超えて服用する場合は医師や薬剤師に相談するよう”などと注意を明記しています。にもかかわらず、のめば少しの間はラクになるからとのみ続けてしまう人は少なくない。極めて危険です。
A子:だけど反対に、副作用の心配はあまりないけれど、効き目もイマイチという薬もどうなんだろうと思います。
C美:同業他社の友人は、自社の整腸剤を、「これって効いてるのかな?」と言いながらのみ続けて、販売もしている(笑い)。
A子:体に害がないのはいいけれど、お金がもったいない。しかも整腸剤って割と高いですよね?
C美:そうなんです。どっちでもいいなら、のむ必要はないじゃない、と思って。もったいないといえば、市販の睡眠導入剤って、コスパが悪くないですか? 12錠入って2000円とか、かなり強気の値段設定なのに効き目はイマイチ。
A子:確かに、プラセボ効果というか、気休めにすぎない感じはある。実際、主成分の『クロルフェニラミン』って、第一世代の古い抗ヒスタミン薬や風邪薬に入っている成分とまったく同じなんですよね。つまりそれらの薬では「副作用」とされている「眠気が出る」という要素をメインに持ってきて、パッケージや名称だけ変えて、「睡眠導入剤」として売り出しているにすぎない。それなのに値段は、抗ヒスタミン薬の2倍近いものもあるなんて……。
B男:適用外の使い方をするのはどうかという意見もあるでしょうが、成分を調べて同じなら鼻炎薬を買った方が明らかに安い。
C美:B男先生のような医療関係者ならそういう考え方もありかもしれませんが、自己判断はやっぱり危険。日本で市販されている睡眠導入剤レベルならまだしも、海外のサイトで薬やサプリメントを買って、そのせいで体調が悪くなっている人も多い。日本は個人輸入に関して規制が緩いから、無法地帯です。うかつに手を出して、健康被害が起きてから後悔しても遅いです。
A子:あれは本当に怖い。病院に行くのが恥ずかしいからとやせ薬やEDの薬を輸入する人も多いけれど、偽物も横行している。
B男:恐ろしいのは同じ名前の薬だからといって、中身が同じとは限らないということ。製造過程が異なったり、書かれていないだけで成分が異なっていたりする。実際に、輸入した抗生物質をのんで体調が悪くなった患者さんもいました。薬を買うならせめて国内だけにしてほしい。それでも「のませるのが心配な薬」がこれだけあるのが現実ですが……。
(第3回へつづく。第1回から読む)
※女性セブン2023年6月8日号