人生を変えるほどの病魔から救ってくれた名医との出会いと闘病生活について、各界の著名人に聞く。スキルス性胃がんと戦った野球評論家の江本孟紀氏(75)が体験談を語る。
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がんに気づいたきっかけは「大食い」でした。2017年3月、テレビの大食い番組でギャル曽根さんと出演して大盛りの蕎麦を食べた時、胃を突き上げるような感覚に襲われたんです。それまで経験したことのない感じだったので、収録後にかかりつけ医で3年ぶりに胃カメラを飲みました。
それから、かかりつけ医が提携する慶應義塾大学病院で精密検査を受けたところ、スキルス性胃がんが判明しました。すでにステージ4に近く、内視鏡ではなく開腹の手術をすることになりました。
この時の執刀医が慶大病院医学部外科学(一般・消化器)准教授の川久保博文医師です。初対面でしたが現役バリバリの年頃で頼もしく見えました。
僕のようなスキルス性胃がんの5年生存率は一般的に7%で、命を落とすことが多い病気と言われているようです。なるようになれとの気持ちで6時間以上に及ぶ手術を受けて胃を全摘しましたが、術後の「転移は見られず、私が見えるがんは全部切ったから安心してください」という川久保先生の一言には勇気が湧きましたね。
僕は食い意地が張っているけど、胃を全摘したらそれほど食べられません。それでも川久保先生の「好きなものはどんどん食べよう」という言葉に励まされました。今も川久保先生の助言に従って、昔よりも意識して美味しいものばかり食べています。
手術後の治療では慶大病院腫瘍センター准教授の浜本康夫医師にもお世話になっています。治療の効果を見ながら、抗がん剤や投薬を決めてもらってますね。
浜本先生は親切な方で、最初は心配して状況を細かく説明してくれましたが、今は3か月に1度の血液検査後に「問題ありません」と短く言われるだけです。でも、この一言がどんなに嬉しいか。
両先生のおかげで生存率7%の状況から生き抜くことができ、今の僕の体にはがんが1つもありません。
9回裏二死満塁・3ボール2ストライクの大ピンチで、ど真ん中のストレートを投げて三振に打ち取った気分です。
※週刊ポスト2023年6月9・16日号