ライフ

「イヌノフグリ」「ママコノシリヌグイ」 今の時代なら考えられない!センスを疑う植物の名前

(写真/イメージ)

農業高校で学んだ雑草の名前(写真/イメージ)

 体験取材を得意とする女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子氏が、世の中で話題になっていることについて、思いのままに綴る。今回は朝ドラ『らんまん』に関連して、植物に関するお話です。

 * * *
 朝起きるのが楽しくて仕方がない。

 再放送の朝ドラ『あまちゃん』(NHK BSプレミアム)のスチャラカなテーマ音楽で目を覚まし、『らんまん』を見ながら朝食を食べる、ゴールデンな30分のおかげだ。

『らんまん』は植物学者・牧野富太郎の一代記で、私たち世代は誰でも知っている名前だけど、その人物像となるとよくわからない。まさに朝ドラ向きの学者よね。

 実は私、道端の雑草名を必死で覚えたことがあるんだわ。そのことが結果的に私の雑草人生に光が当たるキッカケになったんだから、人の運命ってわからない。

 昭和46年、私が農業高校に入学したのは、農業に興味があったからでもなんでもない。義父とけんかをして実家を追い出されたからなの。そんな私を地元のある商店主が拾ってくれて、そこに住み込みで働きながら高校に通えることになった。ただし、「学校は地元の農業高校」というのが条件で。

 当時、偏差値という言葉があったのかどうか。進学校に行く同級生からは「あそこは自分の名前を書ければ合格するらしいよ」とバカにされた。つまり、私は入学したときから夢も希望も抱いていなかったわけ。

 オリエンテーリングで時間割を渡されたときのショックといったらなかった。国数英理社の5教科は数えるほどで、その代わり、農業・畜産・園芸・食品・被服が週に4時間ずつ。「本科は農家の嫁さんの養成科だ。諸君、頑張りたまえ」と言って、英語の教師は「カカカ」と笑ったけれど、こっちは笑いごとじゃない。それに加えて、寝起きして働いている商店は大人だけで、楽しいことなど一つもない。まさにどん詰まり。時間割を見ているうちに涙があふれてきた。

 半年が過ぎた。ある日、「ヤマザキさん(私の旧姓)、来年、農業鑑定競技で北陸大会に出ない? 学校は出席扱いで旅行ができるわよ」と、40才手前の女教師K先生が思わぬことを言ってきたのよ。「この前、授業で鑑定競技をしたでしょ。あなたの成績がいちばんよかったのよ」と。

『日本学校農業クラブ連盟』という組織があって(現在もある)、毎年各地で全国大会がある。農業高校の甲子園みたいなものだ。その種目の一部門が「鑑定競技」で、授業で出てきた調理器具や洋裁道具の名称から、稲の病気、豚や鶏の病名などを素早く当てていくというもの。

「ただね。ヤマザキさんの課題は、雑草名がほとんど答えられなかったこと。これをクリアしないと、来年の北陸大会はともかく、再来年に控える北海道大会への出場は難しいわよ」

 K先生のこのひと言でちょっとやる気が出た。とはいえ、草の名前なんか覚えて何になる、ときっと私の顔に書いてあったのね。先生は鑑定クラブの主将のツジ先輩を紹介してくれた。そして、ツジ先輩は「もういらないからあげる」と言って、大学ノートを何冊も私に渡してくれたんだわ。

 いや、驚いたのなんの。ツジ先輩は長いスカートに髪は激しいレイヤード。どこから見ても「スケバン」よ。なのにノートには雑草が色鉛筆でビッシリと描かれていて、その絵がまたうまいんだわ。「これ、先輩が描いたんですか?」と聞くと、「へたくそだけど、ないよりいいべ?」と照れ笑いを浮かべたけど、どうしたらこんな絵を描けるんだろうと思うくらい精細だった。

 翌年の春、私は商店の住み込みをやめて義父にわびを入れ、再び実家に帰ってきた。そして雑草ノートを片手に家の前の畑を歩いて、一つひとつ名前を記憶していったの。オオバコ・ハコベ・ホトケノザ・イヌタデ……。鑑定競技は1問あたりの解答時間が20秒だから瞬発力がものをいう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
週刊ポストの名物企画でもあった「ONK座談会」2003年開催時のスリーショット(撮影/山崎力夫)
《追悼・長嶋茂雄さん》週刊ポストが1年前に託された最後のメッセージ「私の人生は野球に始まり、これからも常に野球とともにあります」
週刊ポスト
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
長嶋茂雄さんとの初対戦の思い出なども振り返る
江夏豊氏が語る長嶋茂雄さんへの思い 1975年オフに持ち上がった巨人へのトレード話に「“たられば”はないが、ミスターと同じチームで野球をやってみたかった」
週刊ポスト
元タクシー運転手の田中敏志容疑者が性的暴行などで逮捕された(右の写真はイメージです)
《泥酔女性客に睡眠薬飲ませ性的暴行か》警視庁逮捕の元タクシー運転手のドラレコに残っていた“明らかに不審な映像”、手口は「『気分が悪そうだね』と水と錠剤を飲ませた」
NEWSポストセブン
金田氏と長嶋氏
《追悼・長嶋茂雄さん》400勝投手・カネやんが明かしていた秘話「一緒に雀卓を囲んだが、あいつはルールを知らなかったんじゃないか…」「初対決は4連続三振じゃなくて5連続三振」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
「秀才」に突然訪れた“異変”の原因とは(イメージ)
中受で超難関中高一貫校に入学した「秀才」に突然訪れた“異変”の原因とは「腹痛と下痢を繰り返し、成績は最下位クラス…」《エリートたちの発達障害》
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平が帰宅直後にSNS投稿》真美子さんが「ゆったりニットの部屋着」に込めた“こだわり”と、義母のサポートを受ける“三世代子育て”の居心地
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
NEWSポストセブン