国内

天皇と米の深い繋がり 歴代天皇は稲作を通じて五穀豊穣と国の安寧を祈願、現在も続く皇居内での稲作

皇室の稲作は昭和天皇が始めたもので、上皇さま、天皇陛下へと代々引き継がれている

皇室の稲作は昭和天皇が始めたもので、上皇さま、天皇陛下へと代々引き継がれている(写真/宮内庁提供)

 5月16日、皇居内の生物学研究所脇にある水田。五月晴れの青空の下、長袖のシャツに長靴姿で水田に入られた天皇陛下は、およそ15cmに育った稲の苗20株を、素手で1株ずつ丁寧に植えられた。苗は、うるち米の「ニホンマサリ」と、もち米の「マンゲツモチ」の2種類。いずれも、今年4月に陛下がまかれた種もみから育った苗である。

 天皇が自ら田植えをする「皇室の稲作」は、1927(昭和2)年に昭和天皇が始められて以来の伝統行事だ。皇室解説者の山下晋司さんが指摘する。

「『日本書紀』に記されている神話の世界では、アマテラスオオミカミが孫のニニギノミコトに高天原で作った神聖な稲穂を授け、『人々の“命の糧”としてお米を作りなさい』と命じたことを日本の稲作の始まりとしています。ですから、ニニギノミコトの子孫とされている天皇と稲作には深いつながりがあり、歴代の天皇は米などの五穀豊穣を祈り、国の安寧を願ってきました。その思いは現在まで連綿と続いています」

 古代から中世、近代を経てたどり着いた現代。昭和天皇が始めた皇室の稲作もまた、歴代天皇の願いを受け継ぐものだ。

「最初に昭和天皇がお田植えをされた水田は、いまは園遊会の会場となっている赤坂御用地にありました。昭和3年に昭和天皇と香淳皇后は皇居に引っ越されましたので、皇居内に新たに水田が作られました。以降、この皇居内の水田で稲作が行われ、現在に至ります。天皇の稲作は豊作を願い、農業を奨励するとともに、品種改良などの研究目的もありました」(山下さん・以下同)

 昭和天皇から受け継がれた上皇さまは2009年、皇室の稲作について、「それを行う意義を重視していくことが望ましい」と話された。

「昭和天皇は皇居の水田でお田植えとお稲刈りをされていましたが、上皇陛下は種まきからやろうとお考えになり、お田植えの前に苗代に種もみをまく『お手まき』を始められました。以降、春に『お手まき』、『お田植え』、秋に稲を収穫する『お稲刈り』をされるようになりました」

 収穫された米は、例年秋に行われる重要な宮中祭祀「新嘗祭」などに使われる。皇室の稲作に参加するのは歴代の天皇だけでない。これまで皇居で行われたお手まきやお田植え、お稲刈りでは、皇太子時代の天皇陛下や雅子さま、愛子さま、さらには秋篠宮ご一家が加わり、ご一緒に作業に励まれる場面がしばしば見られた。そのお姿からは、皇室がいかに米作りの「意義」を重視し、取り組まれてきたかがわかるだろう。

 2019年の御代がわりの際は、退位する直前の上皇さまがまかれた種もみを、即位したばかりの天皇陛下が田植えされ、その年の秋に実りの時期を迎えた稲を収穫。平成から令和へ、皇室の稲作のバトンがつながれた。

「国民の代表として豊作を願う昭和天皇のお気持ちは、平成、令和の天皇へと大切に受け継がれました。3代にわたる稲作のリレーはこれからも継続されていくでしょう」

 そうした歴史をひもとくと、米作りがこの国にとっていかに大切なものなのかわかる。稲作、そして米食は私たち日本人を作り上げ、そして結びつける根幹なのだ。

※女性セブン2023年6月15日号

関連記事

トピックス

『マモ』の愛称で知られる声優・宮野真守。「劇団ひまわり」が6月8日、退団を伝えた(本人SNSより)
《誕生日に発表》俳優・宮野真守が30年以上在籍の「劇団ひまわり」を退団、運営が契約満了伝える
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン
貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
「まだまだ伸びしろがある」…平成の大横綱・貴乃花が“令和の新横綱”大の里を語る 「簡単に引いてしまう欠点」への見解、綱を張ることの“怖さ”とどう向き合うか
週刊ポスト
インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
1966年はビートルズの初来日、ウルトラマンの放送開始などが話題を呼んだ(時事通信フォト)
《2026年に“令和の丙午”来たる》「義母から『これだから“丙午生まれの女”は』と…」迷信に翻弄された“昭和の丙午生まれ”女性のリアルな60年
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト