雨が続く梅雨の季節に突入。こんなときは、家の中で外の雨音でも聞きながら、読書を楽しんでみるのもいいのでは? おすすめの新刊4冊を紹介する。
『コメンテーター』
奥田英朗/文藝春秋/1760円
休眠中だったトンデモ精神科医伊良部シリーズが17年ぶりに復活。コロナ禍でワイドショーの美人医師枠に間違って起用された伊良部。昼は看護師、夜はバンド活動するマユミがSNSでバズり、高視聴率を叩き出してプロデューサーを狂喜乱舞させる。他に過呼吸発作、パニック障害、広場恐怖症の患者に伊良部が施す行動療法とは。迷医にして名医の伊良部に笑いが止まらない。
『日本エッセイ小史 人はなぜエッセイを書くのか』
酒井順子/講談社/1760円
エッセイという分野は自由度が高い。1980年前後が百花繚乱の始まりかもしれない。向田邦子が登場し(1978年)、椎名誠の昭和軽薄体が人気を博し(1979年)、『窓ぎわのトットちゃん』(1981年)がベストセラーになり、林真理子(1982年)など新しい書き手が続々登場。講談社エッセイ賞(1985~2018年)の受賞者は前半の「男高女低」から後半は「女高男低」へ。女性が元気だとエッセイも豊作!?
『愛は時間がかかる』
植本一子/筑摩書房/1980円
著者は写真家。二回り年上の夫を亡くした後、一回り年下の男性と付き合い始め、見捨てられの恐怖からさらに彼に固着してしまう自分が嫌になってトラウマ治療に取り組む(光を目で追う眼球運動によって脳の興奮を鎮める)。昔の恋人や母との関係を見直すことで、彼との関係もいい方向に向かうのが目覚ましい。裸のままそこに立っているかのような著者の文章に、魅入られる。
『70歳のたしなみ』
坂東眞理子/小学館文庫/759円
人生100年時代、70代はゴールデンエイジだと著者は言う。ではその黄金時代を享受するには。「今こそおしゃれ」「終活より老活」などの文言が並ぶが、最も刺さるのは内館牧子さんとの対談にあるナチュラル禁止令。外見にしろ社交にしろ、ありのままを押し通すのは単なる「無精」と。私的領域に籠もらず社会に出て行く。微力でも社会に何かを還元できる高齢女性を目指そう。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年6月15日号