かつては仕事帰りの男性会社員が寄るところだった居酒屋は、1980年代から居酒屋チェーンが登場しカジュアル化、低価格化がすすみ、2000年代にはその傾向がさらに加速した。そして、アルバイト先を求める若者にとって居酒屋、とくに居酒屋チェーンは定番の勤め先となったが、近ごろは人気薄だという。俳人で著作家の日野百草氏が、居酒屋チェーンが働き手を確保する困難に直面している現実を、現店長や元店長、元アルバイトたちに聞いた。
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「家族のようにあったかい、アットホームなお店です!」
「時給も大事だけど、ワイワイ楽しいも大事!」
「お兄ちゃん的存在の店長になんでも相談、頼れます!」
これらは居酒屋チェーンの求人キャッチコピーである。多少改変しているが、同じような文言と満面の笑顔の店員たちがスクラムを組んだり、それぞれ芸人のように愉快なポーズをとったりしている。よくある求人広告だが、居酒屋チェーンの30代マネージャーは「会社も広告会社もわかっていない」と語る。
ブラック業種のまま放置した業界の自業自得
「もうこんな求人で満足に若者が集まる時代ではない。むしろ敬遠されることのほうが多いように思う」
居酒屋で働きたいと思わせる楽しい広告のはずが、敬遠されるとはどういうことか。
「現代ではこういった広告こそ『ブラック業種』の代名詞にされている。若者は敬遠する。SNSやネットの掲示板で以前から『こういう広告の会社はブラック』とされている」
確かに、よく匿名掲示板やSNSなどで揶揄されている類いの求人だ。「楽しさ重視」「店長が優しい」「髪・ピアス・ネイル自由」などのキャッチコピーが踊っているが、こうした以前からある広告で求人するのは難しい、ということか。
「楽しさより時給だし、お兄ちゃん的存在の店長がどうしたというのか。『髪・ピアス・ネイル自由』も定番だが、今どきの子は『そんなの当たり前』でわざわざ書いているところが不審がられる。本当にわかっていない」
本社や一括して求人と関係する部署が「わかっていない」として、どうすればいいと考えるか。