中国の少数民族であるウイグル族の男性研究者が5月中旬、滞在先の韓国から香港の空港に到着したあと、消息を絶っていたことが明らかになった。香港当局は男性が香港に到着した記録も入境を拒否された事実もないとしている。しかし、男性は友人に「空港で香港警察の尋問を受けた」などとショートメッセージを送っており、当局に拘束された可能性が高い。
国際的な人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によると、このウイグル族の研究者は新疆ウイグル自治区出身のアブドゥワイリ・アブドゥレヘマン氏で、2016年から韓国の大学に留学し、スポーツ産業とエンターテイメントについての博士号を取得し研究活動を続ける一方で、中国によるウイグル族迫害を糾弾する活動を続けていた。このため同氏は中国政府による「監視リスト」に含まれているという。
アムネスティは、「海外渡航歴がある」という理由だけで、中国当局がウイグル族を拘束した事例を多数記録している。
アムネスティは「新疆ウイグル自治区で、中国政府がウイグル族に対して行った人道に対する罪や、海外渡航したウイグル族に対する追及が続いている背景を考えると、アブドゥワイリ・アブドゥレヘマンさんが行方不明になっている事態に深く憂慮している」と発表している。
香港では言論や報道の自由が保障されていたが、2020年6月の香港国家安全維持法施行で政府批判などが罪に問われるようになっている。香港では日本の大学に留学している香港出身の女子学生が3月上旬、香港へ一時帰国した際に、香港国家安全維持法(国安法)違反の疑いで治安当局に逮捕されたことが明らかになっている。これについて、松野博一官房長官は「一国二制度への信頼を損なわせ、重大な懸念を強めざるを得ない事態が続いている」とコメントし、言論や報道の自由を保護するよう求めている。
それ以前にも、中国政府要人のゴシップなどをまとめた発禁本を出版したとして香港の出版社幹部や書店主が拘束され、中国内で取り調べを受けるなどの事件が起こっており、香港当局は中国政府の意を受けて、反体制的な活動に超法規的な厳しい姿勢で臨んでいる。