ライフ

【新刊】まるでハーブの香りが立つような錯覚…千早茜氏の直木賞受賞後第1作『赤い月の香り』など4冊

“あっという間”でも、実は長かった六十数年を記す初エッセイ

“あっという間”でも、実は長かった六十数年を記す初エッセイ

 本格的な梅雨のシーズンが到来。屋内で過ごすことが多くなるこの時期に読みたい新刊4冊を紹介する。

『行きつ戻りつ死ぬまで思案中』/垣谷美雨/双葉社/1760円
 遺品整理や老後資金など足元のリアルを軽妙な小説にしてきた著者の初エッセイ。城下町で育った子供時代、忙しさのあまり子供達の「今日の晩ご飯は何?」を禁句にした子育て期。マチ針が打てない洋服売場の店員や旅先で握手を求めてくる男性など“危機”を察して一目散にダッシュする近年の逸話には笑う。「親も自分も赦そう」の一文が心にしみる。時が降らせた慈雨のよう。

直木賞受賞後第1作はハーブティーが香るシリーズ第2弾

直木賞受賞後第1作はハーブティーが香るシリーズ第2弾

『赤い月の香り』/千早茜/集英社/1760円
 街の高台にある森に包まれた洋館。朝倉満は匂いのシャーロック・ホームズのような小川朔に怒りの匂いを指摘され、なぜか洋館で働くことに。赤い月の記憶に囚われた満、天才調香師の朔、不思議な香りを所望する顧客を連れてくる新城と、3人の青年達の因縁も明らかに。本からハーブなどボタニカルな香りが立つのは錯覚だろうか? 嗅覚と記憶の不思議を紡ぐ静謐さも印象的。

「アポパイ、ポコパイ パンパンパン」思わず踊り出したくなる「パンダッチュのポー!」

「アポパイ、ポコパイ パンパンパン」思わず踊り出したくなる「パンダッチュのポー!」

『パンダのおさじとフライパンダ』/柴田ケイコ/ポプラ社/1540円
 料理人クーさんは最近料理を作るのがつまらなくて店は閑古鳥。フライパンの柄が折れて買い物に出かけるとパンダの顔が蓋になったフライパンを贈られる。そのフライパンで料理を作るとライオン君、羊ガール、コアラ少年などお客さんで大賑わい。読み聞かせの絵本に落語からヒントを得た呪文を加えて踊れる絵本に。フライパンからこぼれそうな手の平パンダがめちゃ可愛い。

学問の世界に温情や友情があった時代、一介の愛好者を支えた学術の森の人々

学問の世界に温情や友情があった時代、一介の愛好者を支えた学術の森の人々

『牧野富太郎の植物愛』/大場秀章/朝日新書/891円
 高知市と四万十市の間、高岡郡の造り酒屋の総領に生まれた牧野。幼い頃から一人遊びで植物を友とした。明治の学制で出来た小学校に入ったのは10代初め。すぐやめるので学歴は小学校中退、でも東大講師となり博士になった。牧野の功績は分類学。英論文は若い秀才達が手伝った。周りの牧野愛が支えた牧野の植物愛。東大名誉教授の著者の客観的な視点もまた牧野愛に見える。

文/温水ゆかり

※女性セブン2023年6月22日号

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン