3月のWBCで侍ジャパンを率いて世界一の座を奪還した栗山英樹監督が退任して、後任となる新監督の人選が進められている。初陣となるのは今年11月の「第2回アジアプロ野球チャンピオンシップ」だが、2026年に控える次回のWBC制覇を目指して舵取りを託されるのは、一体誰になるのか。
栗山監督は2012~2021年に日本ハムの監督を務めた経験があり、その間に在籍していた大谷翔平(現・エンゼルス)と侍ジャパンで“再会”を果たすというドラマがあった。その一方で、侍ジャパンの監督は、必ずしもNPBでの監督経験者とは限らない。第4回WBCで指揮官を務めた小久保裕紀氏や2021年の東京五輪で金メダルを獲得したチームで監督を務めた稲葉篤紀氏は、NPBでの監督経験がないなかで代表チームを率いた。
次期監督候補として各所で挙がる名前にも、NPB監督未経験者が含まれている。現役時代にロッテ、西武で名セカンドとして活躍した山崎裕之氏は、元ヤクルトの宮本慎也氏が代表に適任だと話す。
「スターが集まる代表チームの監督の場合、選手らへの気遣いが大変だと思います。栗山のようにそれができる監督候補はなかなかいないけど、宮本慎也ならうまくやるかもしれないね。野球をもの凄くよく知っているし、内野手出身ということもあって気遣いができる人物です。代表チームには選手としても出場経験が豊富ですしね」
宮本氏は2004年のアテネ五輪、2006年の第1回WBC、2008年の北京五輪に出場するなど、たしかに代表経験が豊富だ。一方で、現役引退後は2018~2019年にヤクルトでコーチを務めたことがあるものの、監督経験はない。前出・山崎氏は、その点は大きな問題ではないとする見方だ。
「監督経験こそないが、野村(克也)さんから将来の監督として教えを叩き込まれているだろうからね。もちろん『弱者の野球』だと公言するのが野村野球なので、オールスターメンバーが揃う侍ジャパンとはちょっと様子が違うかもしれないけど、世界で戦う野村野球を見られるとすれば楽しみ。そういう意味では興味があるね。
宮本の野球中継の解説を聞いていると、ボクとよく似た考え方だと思うことがある。同じ内野手出身で、それも主役ではなく脇役としてやってきたことがあるのかもしれないが、そういう目線での解説をする。だから彼の野球の考え方には賛同しているんです。決して有力候補として名前が挙がっているわけではないでしょうが、『宮本慎也監督』というのは、やっぱり面白いんじゃないか」
本誌・週刊ポスト6月9日発売号では、「次のWBC監督は誰が相応しいか」を野球評論家20人に取材した。様々な球界OBの名前が挙がったが、そのなかでは現役時代に「絶対的エースだった元投手」「チームの要だった元捕手」「主軸を張った元強打者」といった経歴を持つ人物に限らず、「いぶし銀の魅力を放った元内野手」の名前もあったことが興味深い。
◆代表監督は「自分の野球を押しつけてはいけない」
捕手としてヤクルトに入団後、野村監督のもとで外野手にコンバートされた経験を持ち、引退後に楽天、巨人、西武、ヤクルトのコーチを歴任して現在は独立リーグの新潟アルビレックスの監督を務める橋上秀樹氏も、宮本氏を後継監督に相応しい人物とみている。
「日本代表ともなると選手がタレントみたいなものだから、監督の色があまり濃くなくていいし、目立ちすぎてもいけない。栗山監督はちょうどよかったよね。評論家として名が通っている人はみんな色が濃いので、どちらかといえば地味だけど実績もあって理論がしっかりしている宮本慎也がいいんじゃないかな。
ジャパンの野球は、監督の野球を押し付けるということではないと思うんです。それぞれが出来上がったトップクラスの選手が集まるわけですからね。正直言って、監督の野球観は反映されないし、するべきじゃない。メンバーを選ぶ時に多少は監督の色が出るでしょうが、あとはある程度選手に任せる。ピッチャーにしても国際大会の独自ルールがあるので、自分の持っている野球観は出しにくい。そうしたなかでも、国際大会の経験が豊富な宮本ならうまく順応できると思いますよ。代表選手を預かるという点では、自分が代表選手として招集された経験があるので、送り出した側の球団との兼ね合いもわかっているでしょう」