検診などによりがんが見つかったとしても、すぐに「手術」しないほうがいいケースがあることは知っておきたい。乳腺外科医の尾崎章彦医師(ときわ会常磐病院)が手術のリスクを語る。
「手術はがんを直に切除できるメリットがある反面、全身麻酔による予期せぬ合併症などのリスクがあるほか、術後の回復の困難、部位によってはQOLの著しい低下という問題がある。そのため、患者さん自身が慎重に検討する必要があります」
その代表例が前立腺がんだ。その理由はほかのがんに比べて「進行が遅い」ことにある。上昌広・医療ガバナンス研究所理事長が語る。
「前立腺がんは進行が遅く、『経過観察』という選択があるがんです。むしろ手術では臓器周りの神経を一切傷つけずに行なうことが難しく、術後尿失禁やEDになることがあります」
同じがんでも、発見のタイミングにより治療法が変わることがある。食道がんの場合、従来は「開胸・開腹」による身体へのダメージが大きい術式が標準だったが、合併症や術後のQOL低下が大きな課題だった。
「早期の食道がんは、放射線と化学療法の組み合わせが手術と同じくらいの治療効果だと言われています。放射線治療は手術と違い、術後の副作用が小さく医師の技量差も少ないことがメリット。胸腔鏡・腹腔鏡による手術、ロボット支援手術も導入されており、合併症リスクが大幅に軽減できます」(同前)
肝臓がんについては肝機能の数値などの状況によって適切な治療法が変わるが、「患者さんとがんの状態が許す場合のみ手術が可能だ」という。
「肝臓がんの94%を占める肝細胞がんでは、腫瘤が3個以下で肝機能がよく、術後も肝臓が残せる場合が、手術による根治の可能性が高いと考えられます。一方、肝機能が低下している状態での手術は、肝不全を起こし、腹水貯留や黄疸につながるリスクが高く、最悪、死亡するケースもある。腫瘤が4個以上の肝臓がんでは抗がん剤治療が推奨されます」(尾崎医師)