日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。今回はお茶の間でも人気の高い中国出身料理人の孫成順さんにうかがった。【全3回の第1回】
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長く続くNHKの朝の情報番組『あさイチ』に「3シェフ夢の競演」という企画がある。イタリア料理の落合務さん、日本料理の中嶋貞治さん、そして中華料理の孫成順さんが、家庭でも再現できる新作レシピを披露する不定期のコーナーだ。個性際立つ3人と司会者とのやりとりも楽しく、中でも真っ白な長いコック帽がトレードマークの孫さんは、柔らかな明るさと笑いを場にもたらすムードメーカー。六本木の本店をはじめ、阿佐ヶ谷、日本橋にも支店がある「中國名菜 孫」のオーナーシェフだ。
店のホームページに書かれたプロフィールには「25歳にして中国料理最高位『特級厨師(とっきゅうちゅうし)』の資格を取得」とある。「多くのお店や弟子を持って50歳以上の年齢になってもなれるかなれないか」というレベルの「プロ中のプロ」に与えられる称号なのだそうだ。孫さんが取得した当時、特級厨師は中国でも20人ほどしかいなかったと言われているとか。あの広い中国で……!
そんな、とてつもない資格を持つ孫さんはどのような経緯で来日したのだろう。日本語はどうやって身につけたのか。
六本木の本店でお話を伺うことになった。店の前でカメラマンの到着を待っていたら「あら、ここ孫さんのお店」「あさイチの」「ここだったのね」という女性たちの声が通りから聞こえてきた。さすがの知名度だ。
スタッフの方が店内に招いてくれる。金魚が泳ぐ大きな壺。穏やかな色の照明。上品で清潔感のある、喧騒とは無縁の空間が広がっていた。どうもどうも、と孫さん登場。白いコックコート姿が格好いい。