今年の阪神は16年ぶりに9連勝するなど開幕から好調を維持している。そんな強いタイガースを牽引するのが、今季15年ぶりに古巣に戻ってきた岡田彰布監督(65)だ。元阪神監督で、岡田監督が1980年に入団した当時、一軍守備・走塁コーチだった安藤統男氏はこう語る。
「今年は春のキャンプから『こういう野球をやる』という岡田の考えがチームに浸透しています。昨季までの矢野燿大監督(54)と違い、トップが余裕を持って戦っているので、選手が落ち着いている。地に足がついた野球ができています」
元阪神エースで岡田監督と親交のある江本孟紀氏もここまでの岡田野球を高く評価する。
「評論家時代に見抜いた阪神の弱点をしっかり修正しています。多くの評論家は監督として声がかかると選手に迎合するが、岡田にはそれがない。確固たる野球観と自信がある。ダメならいつでも辞めますよ、という居直りもプラスに働いています」
岡田野球が選手に浸透していることは、数字にも現われている。今季、阪神の打者が選んだ四球数は、12球団でダントツの222個。個人成績でもセ・リーグの上位7人のうち、4人が阪神の選手だ(6月14日時点、以下同)。第一次岡田政権(2004~2008年)のリーグ優勝時(2005年)の1番打者であった赤星憲広氏は、「今シーズンの阪神に四球が多いのは、明らかに岡田監督の指導の賜物です」と語る。
「僕が現役だった頃から、『四球はヒットと同じ』『追い込まれてボールを振るのは見逃し三振と同じ』と口にしていました。そう言われると選手としては、『際どいボールは無理に手を出さなくてもいい』と楽な気持ちで打席に臨むことができる。今の阪神の選手たちも同じように感じているんじゃないですかね」
1、2番の近本光司(28)、中野拓夢(26)を核に打線を固定したことも好調の要因だと指摘されている。元阪神監督で現役時代に岡田監督と二遊間を守った藤田平氏が語る。
「打順がコロコロ変わった矢野時代と異なり、1、2番に足の速い近本、中野を固定し、4番を打つ大山悠輔(28)、下位打線のオーダーはほぼ不動です。一度決めたら変えない岡田の頑なな性格が出ていますが、選手も打順が定まっているほうが気楽でしょう」
安藤氏がポイントとして振り返るのは6月7日の交流試合・楽天戦だ。岡田監督は不振の3番ノイジー(28)に代えて2年目の前川右京(20)を抜擢した。
「この時、若い前川を3番で起用して、ほかの上位打線の打順はいじらなかったのがミソです。前川も起用に応えて楽天戦からヒットを連発しましたが、多少うまくいかない可能性があっても我慢して極力オーダーを変えない。先を見据えた起用に踏み切れる。それが岡田の凄さです」(安藤氏)
※週刊ポスト2023年6月30日・7月7日号