横浜・元町から山手トンネルを抜けると本牧だ。かつて米軍住宅が隣接し、アメリカ文化を肌で感じてきた街。本牧1丁目のバス停を降りてすぐ、四角いピザ発祥の店といわれる伝説のバーの近所に、レンガ外壁の『岩太屋』がある。この街を昭和の初めから見守ってきた老舗酒屋だ。
今日は3時半から来ているという40代の常連が、「ここで飲んでると『またフラミンゴか?』って言われるんですよ。カウンターに一本足で寄っかかる姿がまるでフラミンゴみたいだ、なんて言う人がいてね」と笑う。立ち飲みを洒落た言い方で呼ぶのが本牧流だ。
「オレは長距離トラック乗るから、次の仕事までアルコールを8時間以上、空けなきゃならないんですよ。時間になったら、飲むのはお終い。なので、その日の仕事が終わったら着替えの間も惜しんですぐに来るの。こんな早い時間から開いててよかった!だよね。すぐ飲み始めなきゃなんないからね(笑い)」(40代、運送業)
一番乗りの彼を追うように、そのうち、いつものように、ひとりふたりと集い始めた。
彼らのお目当ては “本牧のアイドル”に会うこと。そのアイドルとは3代目店主・岩田明久さん(69歳)の母・芳子さん。昭和6年生まれで御年91歳の現役だ。
「わたしがこの店に嫁いできたのは昭和28年よ。その頃は『売る酒がなくて大変だったよー』なんて話してて、みんなまだ戦争の名残があったわね。立ち飲みは賑やかにやっていましたよ。いつの時代も、色んな人がここで飲んで、話を楽しんで。それを見てきました」(芳子さん)