国民の2人に1人が罹患するがんは治療の第一選択肢が手術になりやすい。例えば、ステージIの肺がんの場合、治療法の内訳はアメリカでは手術が60%、放射線治療が25%。同様にイギリスは手術53%、放射線12%だが、日本は手術95%、放射線5%となる。手術に伴う入院日数の長さも世界有数だが、入院の長期化は体が衰弱する原因になると考える医療関係者も少なくない。
「早めに切った方がいい」
夫が初期の胃がんになり、主治医からそうすすめられたTさん(55才)。医師に従って、夫は胃の半分を切除した。だが手術後、夫の様子が一変した。
「夫は食べることが大好きだったのに食欲が落ち、見る見るやせ細り、気力と体力も低下し、満員電車に乗れなくなって会社を早期退職しました。抗がん剤の副作用で激しい頭痛と倦怠感が生じて、症状は悪くなるばかり。最近はうつろな表情が増え、認知症のような症状まで出てきた。内視鏡でがんだけを取る選択肢はなかったのか、手術を受けたせいで夫の人生が狂ってしまったのではないかと思う日々です」(Tさん)
Kさん(43才)は乳がんで乳房全摘手術を受けたことを後悔している。
「腫瘍の部位の関係で全摘になりました。手術後は上半身の右側と左側で大きくシルエットが変わり、体のラインがわかる服は着られません。手術した方の腕は肩まで上がらず、体のバランスが変化してまっすぐ歩けなくなり、肩こりや頭痛に悩まされます。メンタル面でも乳房がなくなったショックは想像以上に大きかった。せめて乳房再建の期待が持てる『乳頭乳輪温存乳房切除術』にする選択肢はなかったのか、本当に悔やまれます」
いずれも医師の提案に従って手術を受け、QOL(生活の質)が低下したケースだが、特に乳がんの場合は、切らない治療法がいくつもある。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが言う。
「最近は放射線治療のほか、ラジオ波焼灼療法や凍結療法など乳房を切除しない治療が進歩しています。部位やステージにもよりますが、術後のQOLを考慮した治療法が望ましいです」
子宮がん検診で5cm弱の卵巣嚢腫が見つかったSさん(46才)。半年後の検査で嚢腫が6cmになると医師から「これ以上大きくなるとねじれや壊死で激痛が走るかもしれない」と宣告され、その後、がんになりかねない「異型細胞」も見つかった。「がん」と聞いて怖くなった里田さんは、医師にすすめられるまま手術を受け、片方の卵巣を切除した。
「手術を終えた後から尿漏れや下腹部痛、腰や背中の痛みが続き、膀胱炎をこじらせて腎盂腎炎を発症しました。1か月ごとの生理は陣痛のような痛みで、下半身の不調がずっと続いています。がんになったわけではなかったのだから手術を急がず、経過観察を続けるべきだったのかもしれない。手術以外の選択肢も示してくれていたら……」(Sさん)
都内の大学病院に勤務する整形外科医が予後のリスクを指摘するのは食道がんの手術だ。