「大谷選手は、思いやりがあり、寛容で、勇敢です。そして、一生懸命練習し、献身的で、絶対にあきらめない心を持っています。人として模範となる彼の振る舞いは、子供たちに、人生の指針と教訓を与えてくれるのです」
ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手(28才)は、アメリカの野球の常識を覆す「投打二刀流」での活躍を続けている。華麗なプレーはもちろん、常に野球を楽しみ、チームメートや対戦相手、裏方スタッフやファンへの感謝とリスペクトを忘れない人間性は、世界中の野球ファンのみならず、老若男女を魅了している。
冒頭の言葉を語ったのは、そんな大谷に魅了されたひとり、カナダ人のデービッド・ポラードさん(74才)。大谷のファンクラブを立ち上げた熱烈な大谷ファンであると同時に、大谷のエピソードを「道徳の授業の教材」として用いて、大学の教壇に立つ講師でもある。
例年、大谷は6月に調子をあげる。今年はその絶好調ぶりが顕著で、打ってはホームランと打点の2部門で両リーグトップ、投げては被打率が両リーグトップの成績を残している(6月25日現在)。
プロ野球選手を目指す子供たちにとって、大谷のプレーは最高のお手本だ。だが、ポラードさんは野球の技術以上に、野球に取り組む姿勢や日々の過ごし方を学生たちに伝えたいと考えている。
「大谷選手をテーマに『スポーツを通じた人格形成の方法』を、教員を目指している学生に教えています。礼儀、思いやり、相互理解などの重要性を教えてくれるのです。道徳を教える上で、大谷選手が持つ資質は、もっともふさわしいものです」(ポラードさん)
ポラードさんは50年以上にわたって教師を務め、現在はトロントにあるティンデール大学に勤務し、教員を養成している。将来、子供たちの前に立ち、心を育む役目を担う学生を指導するのに、大谷ほど適した題材はないと語る。
一方で、ポラードさんは大谷の“人間らしさ”もまた、人を育てる上で重要なポイントだと感じている。
「冷静沈着で穏やかな面がある一方、うれしいときはチームメートと抱き合い、自分のプレーに納得がいかないときは、ベンチでヘルメットを投げてしまうこともあります。
それは、一生懸命練習して、試合では最後まであきらめない心を持っているからです。喜びや苛立ちといった“素の感情”を見ることで、子供たちは大谷選手が自分たちと同じように感情を持っていることを実感できるのです」(ポラードさん)
人間誰しもうまくいかないときはあるが、それは次の目標を達成するために通る道。大谷の行動は、そうした示唆に富んでいるのだ。
カナダは、国民の約4人に1人が移民で、多文化主義の国といわれる。「ダイバーシティ」「インクルージョン」という価値観が根底に流れているカナダでは、遠くアジアにある日本からやってきた大谷の気高さが、共感を呼ぶのだろう。
「大谷選手のキャラクターは、とても魅力的です。彼は日本の伝統と文化に誇りを持っています。カナダの子供たちはさまざまなバックグラウンドを持っていますが、自分のルーツに誇りを持ち続ける意味を、大谷選手から感じ取っています」(ポラードさん)