「週刊ポスト」読者1000人を対象に「好きなフォークソング歌手」アンケートをとったところ、1位:中島みゆき(366票)、2位:井上陽水(259票)、3位:かぐや姫(213票)と、中島みゆきが圧倒的1位を記録した。
音楽評論家・富澤一誠氏が、フォークソングの時代と、中島みゆきというアーティストについて解説する。
「1960年代前半に世界を席巻したアメリカのフォークソングは若者を夢中にさせました。ファッションや歌のメッセージ性が共感を呼び、そこから、和製フォーク第1号となったマイク眞木の『バラが咲いた』、反戦などメッセージ性を帯びた岡林信康の楽曲という2つの系統のフォークが生まれ、若者に支持されました。
フォーク以前は作詞作曲と歌手がバラバラでしたが、彼らはギターを手に自らの言葉で歌った。与えられるのではなく、自分たちの中から生まれた民衆の歌が、フォークソングの真髄です。
ニューミュージック台頭期に登場した中島みゆきは、時代に抗うようにギター一本のフォーク本来の姿を体現しました。今やフォークの枠を越え『中島みゆき』というジャンルを確立しています。そんな存在は吉田拓郎や井上陽水、ユーミンなどほんのひと握り。中島みゆきもまた稀有なアーティストの1人なのです」
気取られず、弱い側にさりげなく寄り添う
中島みゆきは、「1970年代」「1980年代」「1990年代」「2000年代」という4世代でシングルチャート1位を獲得した唯一の女性アーティストだ。昭和から平成、令和にいたるまで、なぜこれほど愛されるのか。デビュー前の中島と音楽活動をしていた、喫茶店「コーヒーハウス ミルク」(北海道札幌市)のオーナー・前田重和氏はこう語る。
「愛されるというより、心を掴まれているというほうが近いと思います。彼女の歌は、隠したり誤魔化そうとする心を赤裸々にえぐり出します。例えば、『あなた、嘘をつきましたね。私、見ました』とね。好きとか嫌いでなく、深いところで心を掴まれるのです」
デビュー当初に社会問題化していた、動物の虐待問題が原点にあると前田氏は推測している。
「弱いものに対する正義感が強い。それを直接、詞にするのではなく、気取られず、弱い側にさりげなく寄り添っている。それが彼女の歌の魅力なのです」
取材・文/上田千春
※週刊ポスト2023年6月30日・7月7日号