梅雨になり、外出が億劫になるこの時期。部屋の中で読書を楽しむのは、いかがでしょうか? おすすめの新刊4冊を紹介します。
『墨のゆらめき』/三浦しをん/新潮社/1760円
老舗ホテルマンの続力は、宛名書きの依頼で筆耕士の遠田薫を訪ねる。薫は30代半ばの驚くほどのイケメンで、養父の書道教室を継ぎ、猫のカネコ(金子信雄似)と暮らしていた。お人よしの力(チカ)と、ふと仄い目をする奔放な薫がバディになっていく相棒もの。東映ヤクザ映画を卒論にした著者自身が、すごく愉しんでこれを書いた感じ。流麗な墨文字の世界にも魅せられる。
『自民党の統一教会汚染2 山上徹也からの伝言』/鈴木エイト/小学館/1760円
前作は大宅賞候補に。忘れられたテーマを長年追い続けた姿勢が評価された。この「2」では元首相銃撃射殺事件以降テレビで引っ張りだこになった経緯と、“イデオロギーはない、事実を伝え、判断は視聴者に委ねる”という立場を改めて明確にし、ひろゆきや太田光らとの対話を収録する。当選目的の議員と、カネや人材も豊富な統一教会との蜜月。7月衆院選説もある中、気は抜けない。
『逆境を生き抜くための教養』/出口治明/幻冬舎新書/990円
別府の立命館アジア太平洋大学学長を務める著者は、2021年1月脳出血に倒れた。右半身麻痺と失語症を抱えるが、全く落ち込まなかった。14か月後に電動車椅子で復職。2023年開学の「サステイナビリティ観光学部」への思いが後押しした。鍵は精神力ではなく「ロジカルに諦め」「運命を受容し」「ベストを尽くす」こと。シチリア王や持統天皇など歴史上の人物の妙も語ってくれる。
『52ヘルツのクジラたち』/町田そのこ/中公文庫/814円
東京から単身大分に移住したキナコ(貴瑚)は近隣の少年の体に虐待の痕を見る。そこから紐解かれる貴瑚自身の壮絶な過去。周囲に届かない周波数で歌うクジラは孤独な同類をかぎ分ける。ヤングケアラー、DV、LGBT、育児放棄、児童虐待など現代の荒れた諸相をてんこ盛りにした物語でも、読むのが辛くないのは、地縁や知縁が結ぶハッピーエンドを確信しているから。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年7月6日号