食べ物を巡っては、様々な“健康常識”がある。これまで信じられてきた言説について、『世界の研究者が警鐘を鳴らす「健康に良い」はウソだらけ』などの著書が話題となっている内科医のつかさ内科院長・稲島司医師に聞いた。
「食べ物には健康にいいとされる多くの“神話”がありますが、そのほとんどが疑わしい。まず、“身体のなかで弱った箇所と同じ部位の食物を摂取することでその悩みがなくなる”という考えは根強いですが、根拠がありません。
例えば、『鶏軟骨を食べると膝関節にいい』という説。鶏軟骨にはコラーゲンが多く含まれますが、摂取しても実際は分解されてアミノ酸として吸収されるだけです。コラーゲンを摂取したからといって膝の軟骨にそれが行き渡るわけではないのです」
こういったパターンの健康常識は、“頭のいい人の脳みそを食べれば頭が良くなる”という絵空事に近いものだという。
同じく、「『わかめを食べると頭髪が増える』にも根拠がありません」と稲島医師が続ける。
「万葉集でわかめを若い女性の豊かな髪にたとえて詠んだことから発生した迷信という説があります。頭髪の生成には、わかめには含まれないタンパク質が必要となります。似たようなもので『ブルーベリーは視力回復に効果がある』という説は、第二次世界大戦で視力のいい英空軍パイロットが毎日ブルーベリーを食べていたらしいという話から始まったと言われます。
実際には、ブルーベリーに含まれるアントシアニンは動物実験や細胞実験では有効であるとの研究結果はありますが、人間に対しては確定した有効な結果はありません」
一方、スーパーフードのように「“万能な食品”といわれる食べ物には、過大評価されているケースもある」という。
「『牛乳を飲むと骨が丈夫になる』という説は根拠が薄弱です。牛乳にはカルシウムなどが豊富に含まれ栄養価が高いのですが、骨粗しょう症にはビタミンDの補充が欠かせず、運動や日光浴、薬での治療が望ましいです。
同様に、『乳酸菌飲料で腸内環境を改善できる』と言われますが、効果は限定的です。腸内環境の改善には“便移植”という治療法が有力視されています。良い腸内細菌を持つ人の便を腸に移植するという、抜本的な処置です」