吉田氏は比例に回っても名簿上位であれば議員の立場は保つことができる。安倍派も議席は守れるし、党に働きかけたことで昭恵夫人への義理は果たした。どちらも「夫の地盤を守りたい」という昭恵夫人の気持ちをうまく利用したとも言える。
そして昭恵夫人は、安倍家の地盤を林氏に奪われることになった。政治評論家の有馬晴海氏が指摘する。
「岸田首相や自民党はこの1年、安倍元首相の悲運な死を補選や統一地方選にさんざん利用してきたが、安倍家の政治基盤はもう残す必要はないという判断でしょう。山口の公認問題も、晋三さんが存命の時は晋三さんが新3区で林氏は新1区に回る可能性があったが、亡くなったことで事実上、新3区は林氏に決着していました。そこに昭恵夫人が『この選挙区は安倍が長年培養してきた地盤です』と介入してきた。
昭恵夫人が後継出馬したならともかく、後援会長の立場で幹事長に直談判するのは異例なこと。安倍さんは地元での人気が高かったとはいえ、いまや山口県民の間では林外相を次の総理にしようという期待が高まっている。自民党山口県連も安倍離れが進んでいる。昭恵夫人が安倍家とゆかりのない吉田氏を担いでも、旧安倍後援会は強く支持しようという動きにはならなかったのでしょう」
昭恵夫人とすれば、“みんな夫が亡くなった後もさんざん私を利用しながら、使い捨てにする気か”という思いだろう。
その昭恵氏はユーミンのコンサートや和歌山の梅農家の手伝い、里親活動の支援から、夫の代わりにモンゴルから勲章を受けるといった活動ぶりをツイッターに綴っているが、最近は、「#成長」というハッシュタグで、〈昨日から成長とは何かを考えてます。皆さんにとっての成長は?〉と意見を呼びかけ、〈因みに私の成長は“無”に近づくことでしょうか〉(6月23日)と書き込んでいる。
頼りにしていた夫の元部下たちに裏切られて安倍家が長年築いてきた地盤を失い、政界の非情さに触れた元ファーストレディは、そんな心境を目指したいということなのだろうか。
※週刊ポスト2023年7月14日号