プーチン政権への叛乱騒動で世界中の注目を集めたロシアの民間軍事会社「ワグネル」。創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は6月24日、プーチン政権との間で身の安全と免責の保証を得た上で、首都・モスクワに迫ったワグネルの部隊を撤収させた。
同26日にはSNSにメッセージを投稿し、ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介のもと、流血の事態を避けるために進軍を中止したと説明。ロシア国防省の決定により、ワグネルは7月1日に消滅する可能性があったことも明かした。
ベラルーシに出国したプリゴジン氏に対しては、ロシアの独立系メディアが「プーチンが治安部隊に始末を命じた」と報じるなど“報復”が囁かれる。プーチン氏自身も6月24日のテレビ演説で、「反逆者として武装反乱を準備し、テロリストの手段をとった者は全員が処罰される」と声明を出した。不穏な空気が漂うが、ロシア情勢に精通する筑波大学名誉教授の中村逸郎氏はこう語る。
「プーチンはプリゴジンを粛清できないでしょう。国内のプリゴジン支持者が多すぎるからです。今回の反乱でもロストフ州に入ったプリゴジンを住人が拍手で迎え入れていました。反政府デモを弾圧するロシアでは異例の光景です。
国内の世論調査機関が発表した『最も信頼できる政治家』でもプリゴジンは5位に入っています。9月に統一地方選、来年3月に大統領選を控えるなか、下手にプリゴジンを粛清すれば世論が反プーチンに傾くリスクがある」
これはプーチンの権力が弱体化していることの現われでもある。
「ウクライナ戦線で戦果が上がらず、いよいよ統制力に陰りが見えてきた。これまでプーチンの言いなりだったルカシェンコ大統領にとっても転機です。彼もまたプリゴジンの影響力は欲しい。プーチンへの重石になるし、外交カードにも使える。今後はベラルーシがワグネルの拠点になるともいわれており、ワグネルがルカシェンコの“飼い犬”になれば、ロシアとベラルーシの関係にも緊張が走るでしょう」(中村氏)
6月27日、ルカシェンコ大統領はプリゴジン氏のベラルーシ亡命を手配したのは自分だと明かした上で、「もしワグネル戦闘員がプリゴジン氏に合流したいなら、使われていない軍事基地を提供する。フェンスもあり、なんでもある。自分たちでテントを設置するといい」と述べたことを国営ベルタ通信が伝えた。“狂犬”の飼い主は誰になるのか。
※週刊ポスト2023年7月14日号