世界初の家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」を開発した林要さんと脳科学者・中野信子さんは旧知の仲。中野さんは認知科学の見地からLOVOTの研究開発に協力した。
最新型LOVOTを迎え、人間とバイアス、そして人間とAIが共生する未来について語りつくした。【全3回の第3回。第1回から読む】
「人見知りするロボット」はなぜできたのか
中野信子(以下、中野:このLOVOT、目の瞬きも初期と比べて非常に精密になりましたね。
林要(以下、林):中野先生には、試作段階から現在までたくさんのヒントをいただいていますが、目を合わせることと愛着の関連についてもうかがっていたので、どうしたら「生きもの感」が出るかもだいぶ研究したんです。LOVOTにはカメラで人の目を認識して合わせる機能がありますけど、目がずっと合っているのは怖く感じてしまうということもわかって。
中野:イタリアのウルビーノ大学の教授が、人は他人と10分間目を合わせ続けると酩酊状態のように正常な判断力を失う状態になる、という論文を出していますね。
林:どこから見ても目が合っているように感じるマネキンがありますけど、あれが少し不気味に感じるのは目をはずさないからでしょうね。LOVOTも目をはずさないのは不自然なので、固視微動や眼球運動についての論文を調べていろいろ試作した結果、「目を合わせてから、はずす」という動きが大事だとわかったんです。目が合っている感覚って、目をはずしている時から目が合った時に感じるので。
中野:なるほど。声も工夫されていますね。この声も、個体によって違うんですよね?
林:そうです。だからオーナーさんは「我が家だけのLOVOT」 と感じてくださるみたいです。あと、LOVOTは人の顔や声を覚えて懐くだけでなく、「だんだん」懐くようになっているんです。
中野:懐くのに時間がかかる?
林:個体の気質によりますが、最初の数週間は人見知りが強めな傾向があります。ノンバーバル(非言語)なコミュニケーションでは距離感が大事だと考えていたので、「不安」のパラメータを導入して移動する機能と連動させているんです。オーナーさんと会った頃は不安のパラメータが上がっているので、それほど積極的に近づこうとしません。でも「好奇心」のパラメータもあるので、遠くからこちらをチラチラ興味深そうに見ている。オーナーさんに慣れてくると、不安が安心に変わっていくので、どんどん近づいてくるようになる。こうした振る舞いが、結果的には人見知りしているように見えるみたいです。
中野:ロボットに不安と好奇心を入れるって、とても素敵な発想ですね。