蒸し暑い日々が続き、エアコンの効いた部屋で過ごしたくなるこの時期。涼しい部屋で本に触れて過ごすのはいかが? 注目の新刊4冊を紹介する。
『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』/杉本昌隆/文藝春秋/1760円
輝く才能を見ていたいと、小4の聡太少年を「おやつ食べ放題」で釣る自分を妄想するも、さすがに自重。すると向こうから来てくれた! その日から始まった杉本師匠の恍惚とトホホ。2021〜23年にかけての週刊誌連載で、最年少や初をほしいままにしてきた愛弟子は二冠から七冠へ。この秋は史上初の八冠もかかる。隅々まで具の詰まった面白さ。師匠も天才名文家なのだった。
『永遠と横道世之介』/吉田修一/毎日新聞出版/上下巻各1760円
大学生の世之介から始まったシリーズ完結作。列車でいえば車庫入り地点は決まっていて、本作では手前の駅の車窓を楽しむ39才の世之介(カメラマン)を、吉祥寺の下宿屋の面々との日常を通して描く。あけみちゃんの手料理、引きこもりの一歩、江原に頼まれる名付け親、早世した二千花との思い出。このシリーズは、壮大な人生の同窓会(リユニオン)ものだと、改めて思う。
『マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々』/速水由紀子/朝日新書/979円
マッチング・アプリで結婚したカップルを数組知っているが、どの組も男女が対等でいい感じ(中には自分がいかにマッチョだったかを懺悔した男子も)。しかし本書に登場するのは「決めきれない」人々。七股あり、セフレ探しあり、高級店でご馳走になる快楽目的あり。著者は実体験からいい人と出会えるコツも伝授。アプリ婚が半数になったら社会は変わると希望を紡ぐ。
『懲役病棟』/垣谷美雨/小学館文庫/803円
女子刑務所に派遣されたお嬢医師香織とベテラン看護師マリ江のコンビ。聴診器を当てると女囚達の過去や事情が視えてくる。総菜万引きで懲役2年の清子、夫殺しでも実はDV被害者の美帆、孫の自死で「加害者にも人権はある」とうそぶく教育長を懲らしめた梢。医師の矩を超え女囚達の孤独や孤立に寄り添う態度はお節介そのもの。お節介が足りない現代の世直し譚のようだ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年7月13日号