高血圧や糖尿病と診断されると、多くのケースで治療薬が処方されるようになる。しかし、服用してもなかなか数値が下がらず、医師から「別のお薬も試してみましょうか」と新たな薬が処方され、1日に何錠もの薬を口にすることに──。
こうした悩みに直面する人は少なくないだろう。しかし、その原因は生活習慣や体質にあるのではなく、あなたが以前から服用している「別の薬」にあるかもしれない。
薬剤師の長澤育弘氏(銀座薬局代表)が言う。
「実は多くの薬で、『血圧を上げる』『血糖値を上げる』という副作用があります。代表的な例は、コロナ禍でも使われた解熱鎮痛薬(NSAIDs=非ステロイド性抗炎症薬)。発熱時や頭痛が出た時にロキソプロフェンやイブプロフェンを飲んでいると、薬のせいで血圧が上がり、かえって頭痛を引き起こすケースがあります。また降圧剤が血糖値を上昇させたり、糖尿病治療薬が血圧を上昇させることもある」
血圧と血糖値がともに高く、降圧剤と糖尿病治療薬を併用している人は少なくない。しかし、それが逆効果となり、それぞれの数値を押し上げる“負の連鎖”につながっている可能性があるということだ。
「例えばメジャーな糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬やDPP-4阻害薬、チアゾリジン薬やグリニド系薬は副作用として血圧を上げることが知られています。そもそも、ほとんどの糖尿病治療薬は副作用に『低血糖』があり、その低血糖の症状は頻脈、高血圧、振戦、意識混濁などです。糖尿病治療薬を飲んで低血糖気味になり、そこから高血圧を引き起こすことも考えられます」(同前)
薬の服用が招く高血圧については、日本高血圧学会も治療ガイドライン(2019年版)に「薬剤誘発性高血圧」と明記。服用することで血圧を上昇させて高血圧を誘発し、降圧剤の効果を減弱する可能性がある薬を8種挙げて注意喚起を行なっている。
具体的には、先述のNSAIDsのほか、甘草製剤、グルココルチコイド(ステロイド)、シクロスポリン(抗生剤)、エリスロポエチン(貧血薬)、交感神経刺激薬(ぜんそく薬など)、経口避妊薬、がん分子標的薬だ。
「ガイドラインでは漢方薬のおよそ7割に入っている『甘草』も血圧上昇を招くと指摘されています。成分表には表記がなくても、よく服用される葛根湯や小青竜湯などにも含まれています」(同前)
副作用に「血圧上昇」などと明記された薬は、ほかにもある。
「例えば抗精神病薬や抗うつ薬は、副交感神経を抑制する『抗コリン作用』を持つ薬が多く、服用により頻脈や血管収縮を起こすことで血圧が上がります」(同前)