ビジネス

増加する野生動物と列車の衝突 獣害対策に柵設置、ハンター育成、観察列車運行

野生動物が列車と衝突する事故が増えている。ヒグマの親子(イメージ、時事通信フォト)

野生動物が列車と衝突する事故が増えている。ヒグマの親子(イメージ、時事通信フォト)

 住宅地にイノシシやシカ、ときにはクマが現れたと騒動になることが近年、増えている。同じように、列車と野生動物が衝突する事故も増えたため、鉄道会社は新しい対策を打ち出している。ライターの小川裕夫氏が、地元自治体との新事業で長期的な対応をとったり、逆手にとって観光と結びつける例をレポートする。

 * * *
 2023年6月6日、JR北海道は2022年度における列車と熊が衝突する事故が45件、鹿との衝突事故が2881件あったと発表した。線路内に侵入する熊や鹿は細かい増減はあっても年を経るごとに増え、それに比例して列車との衝突事故も増加傾向にある。実際、JR北海道管内では鹿との衝突事故は2022年度が過去最多となった。

 動物との衝突事故は動物愛護の観点からも考えなければならない問題だが、ひとたび事故が起きれば、乗務員や乗客にも危険が及ぶ。そのため鉄道各社は事故を未然に防ぐ努力を続けるが、動物は障害物を学習して乗り越えたり、気象条件などで生息域が変わるので、獣害対策は常に内容を更新し続ける必要がある。JR北海道は今のところ、少しでも事故を減らすべく、線路沿いに柵などを設置している。

 野生動物と鉄道でハレーションが起きているのは、北海道のような自然豊かな土地ばかりではない。東京・大阪といった大都市部に路線を有するJR東日本やJR西日本も他人事ではなく、山間部などでは獣害に悩まされてきた。

 そのため、JRグループは獣害対策を話し合う会議を年1回開催。会議では主に、柵設置に関しての知見を共有している。それらの知見を元にして、動物が侵入しにくい角度を試行錯誤し、動物が近寄らないようにする音・光・においなどを発する装置の開発を進めてきた。

 しかし、いくら対策を講じても獣害は後を絶たない。それは鉄道によって農山村が都市化してしまったこと、気候変動によって野生動物の生育環境が変化していることなど、原因をひとつに求めることはできない。そうした背景が獣害を厄介な問題にしているが、なによりも大きいのが対策費用だ。

 獣害はJRといった鉄道事業者だけが取り組む問題ではなく、農林水産省や環境省といった政府機関をはじめ、都道府県や市町村といった地方自治体、さらに森林組合や農協などの諸団体、町内会や自治会といった地縁団体などが各団体間で連携しながらも個々に対策を講じている。そのため、対策費の総額は判然としない。それでも、2023年度における農林水産省の⿃獣被害防⽌総合対策交付⾦が約96億円であることを踏まえると、莫大な金額が獣害対策に投じられていることが窺える。

狩猟免許を持つが狩りをしないペーパーハンターたち

 獣害に頭を抱える中、発想を転換させる鉄道会社も出てきた。小田急電鉄は2021年3月に神奈川県小田原市と鳥獣被害対策の推進に関する協定を締結。同時にハンターバンクという事業を立ち上げた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)が“イギリス9都市をめぐる過激バスツアー”開催「どの都市が私を一番満たしてくれる?」
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン