数多くのヒットドラマを生み出しているフジテレビの「月9」。その最新作『真夏のシンデレラ』で新人脚本家が起用された。脚本コンクールの大賞受賞者とはいえ、新人が人気ドラマ枠でオリジナル作品を手掛けるのは極めて異例。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんがその背景について解説する。
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10日夜、今夏の月9ドラマ『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系、月曜21時)がスタートします。
同作のコンセプトは、真夏の海が舞台の男女8人恋愛群像劇。「月9ドラマの全盛期」と言われる1990年代を思わせる設定に加えて、森七菜さん、間宮祥太朗さん、神尾楓珠さん、吉川愛さん、萩原利久さん、白濱亜嵐さん、仁村紗和さん、水上恒司さんという若手実力派俳優の集結が話題を集めています。
ただ、それと同等以上に業界内で話題を集めているのは、同作が「新人脚本家・市東さやかさんの手がけるオリジナル」であること。市東さんは昨年、『第34回フジテレビヤングシナリオ大賞』の大賞を受賞したばかりであり、連ドラデビュー作をフジテレビ看板枠の月9ドラマで飾ろうとしているのです。その意味で大抜てきの市東さん自身も、『真夏のシンデレラ』の1人と言っていいでしょう。
さらに今春は、『ハレーションラブ』(テレビ朝日系、土曜23時30分、8月5日スタート)でも、昨年の『第22回テレビ朝日新人シナリオ大賞』の大賞を当時、大学4年生で受賞した若杉栞南さんを抜てき。市東さんと同じように同作が連ドラデビューとなるようです。
脚本コンクールで受賞したばかりの人が連ドラを手がけること自体珍しい上に、両作は原作のないオリジナル。まさに異例の大抜てきですが、その背景には昨秋のヒット作『silent』(フジテレビ系)の影響が少なからずあるでしょう。
『silent』生方美久氏との共通点と縁
『silent』はテレビコンテンツの歴代最高となる配信再生数を叩き出し、『TVerアワード2022 ドラマ大賞』を受賞したほか、ロケ地に観光客が殺到したヒット作。川口春奈さん、目黒蓮さん、鈴鹿央士さんらの熱演とともに、新人脚本家・生方美久さんの手がける繊細な人物描写やセリフが称賛を集めました。
その生方さんは一昨年に行われた『第33回フジテレビヤングシナリオ大賞』の大賞受賞者。同賞で審査員をしていた村瀬健プロデューサーが生方さんの才能にほれ込んで『silent』のオファーをしたことなどが明かされています。
一方、『真夏のシンデレラ』の中野利幸プロデューサーも同賞の審査をする中で市東さんの才能にほれ込んでオファーしたそうですから、抜てきの経緯はほぼ同じ。さらに、生方さんと市東さんはともに「元看護師のアラサー」という共通点があるほか、市東さんは自分が1次審査で落選した第33回で似た境遇の生方さんが大賞を受賞したことを知って再挑戦を決意したという縁もあるようです。
そんな共通点や経緯があるからこそ市東さんは『真夏のシンデレラ』を生方さんの『silent』に負けないような作品にしようと全力で挑むでしょう。